2009年10月1日、私はその夜、穴澤賢と某出版社のパーティに参加していた。彼の文芸家協会入会に力を貸してくれた人へのお礼と、これから文筆家として仕事をするという意気込みを見せる彼に編集者を紹介するためだった。

 翌日には彼の愛犬・富士丸用の家の正式契約が結ばれる。35年のローンは大変だろうが、彼はとても生き生きと将来の夢を語っていた。まさかその1時間後、富士丸が死んでいるのを発見するとは思いもせずに。

『またね、富士丸。』は最愛の相棒を亡くした、ひとりの男の慟哭の記録である。多分、メガトン級のペットロス症候群だ。ペットを飼っている人なら決して見たくない悪夢。私を含めた友人達は、彼の哀しみ嘆きを間近で見ながら、どうやったら立ち直らせることができるか、とそればかり考えていた。当時の彼の気持ちは判らなかった。本書を読んで、ああ、そうだったのかと思うだけだ。

 富士丸という天才犬は、神様に愛され召された。残された凡人たちはただ呆然とするばかり。1年を経てようやくまとめ上げた本書は、大いに欲目もあるだろうが心を打つ。身体が引き裂かれるような悲しみと、少しずつの再生は、きっといつか誰かの役に立つ。

 富士丸、また会おうね。

(東えりか)







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