戦争をバックグラウンドにした小説が相次いで発表されている。小説家たちが、何かに突き動かされるように、戦後生き延びた人たちの物語を紡ぐ。今の私たちがどこに立っているのか、確認するかのように。

 角田光代の『ツリーハウス』も大きな挑戦である。満州から引き上げ、着の身着のままで新宿の角筈に辿りついた藤代泰造と妻のヤエは、バラック街の一角で小さな中華料理屋「翡翠飯店」を開く。終戦の混乱期をなんとか乗り切り、徐々に家族を作り上げていく。高度成長期、店は繁盛し子どもたちを大学に行かせることも出来た。息子が店の後を継ぎ、孫が生まれ、その孫たちも順調に成長し、彼らは老いていく。

 一息でこの物語を語れば、どこにでもある市井の一家の三代記である。しかし角田光代は、そんな簡単に幸せな家族の小説なんか書かない。この長大な話のキーワードは「逃げる」。登場人物の誰もが何かから逃げ、どうにか生き延びていく。藤代家最年少の良嗣が、祖母のヤエと過去をめぐる旅は、何を気づかせてくれるのか。多分、この作家の代表作のひとつになるであろう力作を堪能して欲しい。

(東えりか)







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