“1週間に水曜日が二度来たり、日曜日なのに学校に行ってたり”―宮部みゆきさんが『あんじゅう』を語る(3)

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 3回にわたってお送りしている『三島屋変調百物語事続 あんじゅう』(中央公論新社/刊)作者・宮部みゆきさんへのインタビューも今回で最終回。

 今回は物語を執筆されているときの宮部さんについて、そして電子書籍について語って頂きました。この『あんじゅう』はiPadに対応した電子書籍としてもリリースされていますが、宮部さんもお気に入りの様子。その中身とは…?
 最後まで楽しんでお読みください!


■“1週間に水曜日が二度来たり、日曜日なのに学校に行ってたり”

―この『あんじゅう』は、iPad対応の電子書籍版としてもリリースされています。巻物風にテキストを読みながら、上の画面ではキャラが動くというのは新鮮でした。

宮部「この書籍の装丁、デザイン、挿絵…全て本当に素晴らしいと思いますし、またそれとは別に、iPadという媒体を使って、ここで出来るいろいろなプレゼンをして頂けたということですよね。
実は私、最初に、このアプリの雛形を見せて頂いたとき、『テキストは要らないんじゃないの?』って……『いいじゃん、絵だけで売れば』って言っちゃったんです(笑)。そう思ってしまうくらい、新鮮でした」

―本とは全く別の、新しいエンタテインメントのようにも思いました。

宮部「別ですよね〜。今回、これだけ作り込んでもらえなければ、私、OKしなかったと思います(笑)」

―宮部さんが考える、紙の良さと電子書籍の良さの違いはどこにあると思いますか?

宮部「紙の本には長い歴史があって、1冊の本が1つの世界を構成していると思うんですよね。大好きな本って、枕の下に入れて寝たりするじゃないですか。大好きな主人公がこの世界の中に生きているんだ、って思いますよね。それに、人に貸すにしても、プレゼントするにしても、面白いよ!読んでみて!って手渡せる楽しみもありますよね。
私は電子書籍のことはあまりよく分かっていないんですが、新しい、面白い企画が出来るということ、そして視覚障害をお持ちの方にいちいち大活字本をつくらなくても、ボタン一つで文字が拡大できること。これらは大きなメリットだと思います。それから……、お仕事で海外にいらしている方が日本の小説を読むのって難しいですよね。取り寄せるのも大変ですし。でも、iPadが一台あれば、あるいはパソコンを持っていればすぐに、日本の新刊が読めちゃう。これは京極(夏彦)さんに教えてもらってなるほどと納得したんです。だって、海外でどれだけたくさんの日本の方が働いていらっしゃるか……。将来的に、電子書籍としてきちんとパッケージングされているものが流通して、適切な価格で売買されるのならば、私たち作家にとっても幸せな形になると思います」

―本を普段読まない人にも、活字に馴染むことができるチャンスですよね。

宮部「そうですよね。手間をかけなければ届かなかったところにも、便利に使って頂ける。また、こういう媒体ならではの遊びができる。そういう両方の使い道があると思います。
だからこそ、ただ右から左にそのまま移すだけではちょっとなあと思いますね。私の既刊本についても、これからどうしていくかという話がぽつぽつ出てきているんですけど、そのまま電子版にするだけでなく、何か新しいことをしたいですね」

―話は変わりますが、作家としてのモチベーション、何が宮部みゆきを宮部みゆきたらしめているのかをお聞かせください。

宮部「私はたまたまこの仕事に就けて、いい先輩、いい編集者に巡り合い、幸運に恵まれてここにいますけど、本当にこれ以外何の取り得もない人間なんです。だから、このお仕事をやめたら、何もなくなっちゃいます。あと、やっぱり書くことが好きなんですよね。作り話が好きなんです。
だからね、物語を書いていてすごく楽しいし、自分自身が『この結末を知りたい!』って思うんですよね。たとえば恋物語なら、2人が結ばれるのなら、結んであげたいし、別れるのならちゃんと別れさせてあげたい。そういうことが一番のモチベーションです。
逆に自分があまりにも物語にのめり込んでしまうから、担当編集さんには冷静になって欲しいってお願いているんです。のめり込み過ぎて、話が曲がってしまったりっていうことがしょっちゅうあるんで」

―名倉さんはそういう風に止めたことはありますか?

編集・名倉さん「今回は連載だからあまりそういうのはなかったですね。でも、後から読んで、のめり込んでましたね〜っていうところは結構……(笑)」

宮部「わーって書いていると、計算がおかしくなっていることが多いんです。年齢が合いません!とか、このままだと家の窓の数がとんでもないことになります!とか(笑)。あとは、1週間に水曜日が二度来たり、日曜日なのに学校に行ってるとか。そういうのは日常茶飯事なので、ホントご苦労をおかけしてます」

―宮部さんが影響を受けた3冊の本を教えてください。

宮部「3冊だと、逆に迷ってしまって選べないので、1冊だけでいいですか? これはいろいろなところで言ってるんですが、岩波少年文庫から出ている、ルーマー・ゴッデンというイギリスの女性作家の、『人形の家』というドールハウスの話です。今でもときどき読み返しています」

―では、最後に、この『三島屋変調百物語』をどうのように育てていきたいと思いますか?

宮部「江戸の怪奇譚を書くのは好きなので、これからも続けていきたいと思っています。毎回、組むイラストレーターさんを変えて、1冊1冊色の違うシリーズにしたいと思っているんです。今回は可愛いもののけが出てきましたけど、次回はものすごく怖いかも知れません。恋愛小説のような巻があるかも知れないし、お武家さんが出てくる歴史小説のような巻があるかも知れません。そういう風に、バラエティ豊かにしていきたいですね」

―百物語というと、最後に終わったら物の怪が出るという話がありますよね。

宮部「そうそう! 百話まで書いてしまうと怪奇現象が起こるんですよね。だから99話でやめて(笑)、最後の話はこれをずっとお読みくださった読者の皆さんに、お手持ちの怖い話を添えていただければと思っているんです」

―最後は読者がそれぞれの結末を楽しむということですね。ありがとうございました!


■取材後記
 本当に楽しいインタビューとなりました。「こわくて、かわいい」という『あんじゅう』の帯に書かれている言葉通り、作品のお話をされているときの宮部さんの眼は、まさに作家の鋭い眼。物語を作り出すことへの意欲、そして発想力の凄さを『あんじゅう』を読んで実感して頂ければと思います。また、『あんじゅう』はiPad版としてもリリースされていますが(記事はこちらから)、こちらは挿絵がとにかく可愛い! iPadをお手持ちの方は是非見てみてください!
(取材・記事/金井元貴)


◆宮部みゆきさんプロフィール
 東京都出身。1987年、短編「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。88年『かまいたち』で第一二回歴史文学賞佳作入選。89年『魔術はささやく』で第二回日本推理サスペンス大賞、92年『龍は眠る』で第四五回日本推理作家協会賞長編部門、同年『本所深川ふしぎ草紙』で第一三回吉川英治文学新人賞、93年『火車』で第六回山本周五郎賞、97年『蒲生邸事件』で第一八回日本SF大賞、99年『理由』で第一二〇回直木賞、 2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、02年第五回司馬遼太郎賞、第五二回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、07年『名もなき毒』で第四一回吉川英治文学賞を受賞。

◆宮部みゆきさん朗読会のお知らせ
「大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき 自作朗読会 リーディングカンパニー Vol.9」
 直木賞作家3人による朗読会。同じ事務所に所属し公私共に仲の良い3人の作家…大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきが読者との交流とチャリティーを目的に始めた年に一度の自作朗読会――「リーディングカンパニー」。9年目を迎える今回は、初めて3人共演の演目に時代物をチョイス。宮部が書いた泣ける短編を3人がどう声で演じるのか…。そして複数の配役をどう演じ分けるのか…。今回も期待と不安がふくらみます(笑)。普段はお目にかかれない作家の素顔に接するまたとない機会。ぜひ足をはこんでみてくださいませ。

【公演日時】
2010年11月6日(土)昼夜2回公演

【チケット取扱い】
朗読会の詳細・チケットの購入は「チケットぴあ」から
http://ticket.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1043375&rlsCd=001


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