讀賣新聞に連載され、7月に単行本として出版された『三島屋変調百物語事続 あんじゅう』(中央公論新社/刊)の作者・宮部みゆきさんへの単独インタビュー。

 第2回となる今回は、いよいよ宮部さんの「野望」が語られる!? そして、宮部さんの創り出す個性豊かなキャラクターたちの秘密とは?
 ファンならずとも読んでおきたい、作家“宮部みゆき”の素顔を垣間見ることができる…かも?


■宮部さんの野望は“一家に一冊、宮部みゆきの本”

―『あんじゅう』は江戸時代を舞台にした怪奇譚ですが、魅力的な登場人物、キャラクターがたくさん出てきます。「お旱りさん」や「くろすけ」など人間ではない、可愛いキャラも登場しますね。

宮部「これは南さんのおかげです。本文と照らし合わせて頂くと分かると思うんですが、実はキャラクターについて、私は大まかな形でしか描写していないんです。お旱さん(第1話に登場する神様)もおかっぱで顔が白くて、どんぐりみたいな眼で、とか、そう書いただけなんですよ。でもね、南さんがこういった形で描いて下さったんで……。私、挿絵に影響されちゃうんですよ。もっと可愛く書こう!って(笑)」

―絵を見て、もっと可愛くしちゃおう!と(笑)

宮部「くろすけなんかも、じゃあ手鞠を追いかけさせようとか、歌を歌わせようとかね(笑)。最初はそこまで考えていなかったんです。挿絵の力に筆を動かされた気がします」

―こういう登場人物やキャラクターを創る上で、モチーフとしているものはあるんですか?

宮部「基本的には全部、想像です(笑)。私は江戸の怪奇譚を書くとき、ネタ本はほとんど使いません。何か題材にしているものはあるんですか?ってたまに聞かれるんですが、『私は原文が読めないからありません』って言ってます(笑)。
ただ、好きですから、怪奇譚本が現代語訳されているものも読みますし、水木(しげる)先生の『水木しげるの妖怪図鑑』も持っていますし、そういうものに触発されることはもちろんあります。でも、それをそのまま使うということはありませんね。ただ、子どもの頃から江戸の怪奇譚や水木先生の妖怪漫画に馴染んでいて、その中で培養されたものが作品として出てきているので、くろすけも、いろいろなところから受けた影響が “くろすけ”の形になって出てきたんだと思います」

―私の印象はこの『あんじゅう』を読ませて頂いたとき、こう、ジブリ作品のキャラクターに通じるものがあったんですね。特に“くろすけ”には。優しさがあって、それだけにメッセージが含まれている。江戸時代の物語なのに、すごく身近な感覚で。

宮部「この『三島屋変調百物語』シリーズは、暗い話が多いんです。その中で、童話的な要素を入れることを考えてはいます。
青い鳥文庫っていう中学1年生くらいまでが上限の、子どもたち向けのレーベルから作品を出させて頂いているんですが、子どもたちに読んでもらおうと意識すると、むしろ重厚というか、重い、ある意味哲学的なテーマに踏み込まざるを得なくなるんですね。人間の業…なぜ、人間は悪いことをするのか、嘘をつくのか。そういうところを書かざるを得ないんですよ。
「一家一冊」というのが私の遠大な野望なんです(笑)。お子さんからお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんと、皆さんに読んで頂けるようになりたいなって。でも、ご家族で読んで頂くためには子どもの視点が重要だし、お子さんに読んでもらおうと思ったら、優しいだけじゃない、暗いところに踏み込んでいかないといけないと、感じるようになりました。
スタジオジブリの作品もそうですよね。決して暗くはないけれど、逃れられない業だとか、人間のずるいところ、怖いところを描きますよね。私自身、それはずっと書いていくことになると思うのですが、そういうところを、挿絵や装丁などで救ってもらえる。世界を1つ明るいものにしてもらえるんです。テキストしか書けない人間にとっては嬉しいことです」

(第1回 “毎日挿絵がつくから、新聞連載が大好きなんです”―宮部みゆきさんが『あんじゅう』を語る(1)へ)
(第3回:宮部さん、電子書籍を語る 「“1週間に水曜日が二度来たり、日曜日なのに学校に行ってたり”」

◆宮部みゆきさんプロフィール
 東京都出身。1987年、短編「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。88年『かまいたち』で第一二回歴史文学賞佳作入選。89年『魔術はささやく』で第二回日本推理サスペンス大賞、92年『龍は眠る』で第四五回日本推理作家協会賞長編部門、同年『本所深川ふしぎ草紙』で第一三回吉川英治文学新人賞、93年『火車』で第六回山本周五郎賞、97年『蒲生邸事件』で第一八回日本SF大賞、99年『理由』で第一二〇回直木賞、 2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、02年第五回司馬遼太郎賞、第五二回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、07年『名もなき毒』で第四一回吉川英治文学賞を受賞。

◆宮部みゆきさん朗読会のお知らせ
「大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき 自作朗読会 リーディングカンパニー Vol.9」
 直木賞作家3人による朗読会。同じ事務所に所属し公私共に仲の良い3人の作家…大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきが読者との交流とチャリティーを目的に始めた年に一度の自作朗読会――「リーディングカンパニー」。9年目を迎える今回は、初めて3人共演の演目に時代物をチョイス。宮部が書いた泣ける短編を3人がどう声で演じるのか…。そして複数の配役をどう演じ分けるのか…。今回も期待と不安がふくらみます(笑)。普段はお目にかかれない作家の素顔に接するまたとない機会。ぜひ足をはこんでみてくださいませ。

【公演日時】
2010年11月6日(土)昼夜2回公演

【チケット取扱い】
朗読会の詳細・チケットの購入は「チケットぴあ」から
http://ticket.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1043375&rlsCd=001


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