柴咲コウ (撮影:野原誠治)
男だけが患う謎の疫病が席巻した江戸・徳川の時代。多くの男が死に至り、全ての重要な仕事に女が就くという男女逆転の浮世を描いた映画「大奥」。1人の女将軍に3000人の美しき男たちが仕える女人禁制の男の園となった大奥で、“女将軍・吉宗”を演じたのが柴咲コウだ。劇中で描かれる嫉妬や出世争いに対する価値感や、時代劇初出演ならではの苦労話までを聞いた。

――まずは“男だらけの大奥”という環境に足を踏み入れたときの感想から聞かせてください。


柴咲コウ(以下、柴咲):率直な感想ではなく、男だらけの世界で演じてみての感想なのですが、男とか女とかカテゴリーを分けて、さらに役割も逆転させることで浮き彫りになるものがあるなと思いました。それに合わせて、性別なんて関係ないじゃん!って抗いたくなる気持ちも強くなりました。

――金子監督は柴咲さん演じる女将軍・吉宗に「絶対な存在」であってほしいとお願いされたそうですが、柴咲さんにとっての「絶対」とは、どういった概念ですか?


柴咲:私が普段「絶対」という言葉を使うときは「絶対ムリ」とか「絶対できない」といった否定的なニュアンスで使うことが多くて、あまりポジティブなニュアンスで使うことは少ないです。絶対って言い切れないなと思いますし、自分の選択次第で運命は切り開いていくものだと思っていますから、もし使うことがあるとしたら「可能性」という意味で使うかもしれません。ちょっと矛盾していますが、あとは「絶対=遺伝子」ぐらいの感覚でしょうか。絶対に覆されないものという意味で(笑)。

――金子監督の撮影方法や現場の雰囲気などはいかがでしたか?


柴咲:役者のやりたいことを自由にさせてくれる現場でした。普通、映画の現場ってスタッフさんが、録音、照明、演出と分かれていることが多いんですけど、そういった垣根みたいなものがなくて、みんな一丸となって一つのものを作っていこうという雰囲気でした。監督も上から目線での指示ではなく常にフラットな目線で、どんな風に撮ろうか?どんな動きを撮ろうか?ここはどんな雰囲気だろう?と、スタッフと話すときも俳優と話すときも常に対等な姿勢が印象的でした。そして、いつもドキドキ、ワクワクしている方で「いい画が撮れた!」って喜んでいる無邪気な姿もよく見ました。

――ほぼ初挑戦の時代劇の主演ですが、女将軍・吉宗を演じられた感想を伺えますか?


柴咲:大奥という世界を描くということは、男女という点は避けて通れないポイントですが、実は吉宗こそがそういったところから一番遠いところにいる存在かなと思いながら演じていました。女だからとか、女である自分が誰よりも上に立たなければ、といったことではなく、人間として自分のやるべきことをしているに過ぎない存在だなと。「やると決めたからにはやる」という信念の元に動いている人という印象を受けました。

――この作品が描き出す世界観から感じられるのはどのようなものでしょうか?


柴咲:監督が求めているものって、究極的には「愛」なんだろうなと感じましたね。というよりも、自分たちの願望かもしれません。国を取り仕切る人に「愛」という気持ちがあればいい国になるだろう、という願望も込めて、自分のために動く、というよりは、自分という人間を使って国を動かすような人間を描き出せていると思います。

――男女の立場が逆転したことで、大奥内で繰り広げられる男のプライドによる、出世や欲望に対しての男の嫉妬など、男同士の見苦しい争いも描かれていますが、そのあたりはどのように感じますか?


柴咲:男同士の争いって、激しく見苦しいなと思いました(笑)。自分のプライドを貫くために意地になるとか、人を蹴落とすとか、とてもかっこ悪いなと感じましたね。そして、それに気付かないなんて男って大変で、なんて悲しい人生なんだろうって感じてしまいましたね。

――他になにか男の意外な点って気付いたところあります?


柴咲:男性の多くはロマンチストですよね(笑)水野(二宮和也)も一人の女性に対して気持ちを持っていて、それが純粋であるがゆえに、ふとしたときに思い出すし、恋しくなるし、やっぱり死を目前にしたときも「抱いておけばよかった」なんて思い出してるわけですし。

――一一番印象的な夜伽のシーンですが、どのような形で撮影を進行されたのですか?


柴咲:撮影しながら模索していった感じですね。2人の距離感、位置関係、声のトーンまで、探りながら撮影していきました。二宮君は、そちらがこう動くのであれば、こちらはこう動きますよ、という割と受身なタイプの役者さんなので。逆に私の演じ方や距離感や声のトーンで、二宮君の演技も変わったりしますから。また、2人のシーンはいつも監督を入れた3人で話し合いながらやってましたね。「ここはもっと吉宗の感情が出たほうがいいだろう」とか、「こう見せるためには、この間をどうしよう」とか、かなり繊細に詰めて撮影を進めていました。