独自に製作した『ウルトラマン・ミレニアム』らを前に得意げなソンポート氏(08年、タイのアユタヤ市内の自宅で撮影)

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 日本のみならず世界中に絶大な人気を誇る『ウルトラマン』。日本の特撮会社「円谷プロダクション」が生み出した伝説的な作品だが、「海外展開する権利はタイ人のソンポート・センゲンチャイ氏に譲渡された」ことを認める衝撃の判決が出た。

 9月30日、東京地裁の阿部正幸裁判長は、ウルトラマンを製作した円谷プロダクション(東京都世田谷区)に対して、「海外販売権はタイ人の側にある」として、これまでに海外展開した利益のうち1636万円の賠償金をソンポート氏側に支払うように命じた。

 ソンポート氏はこれまで「円谷プロの円谷皐・元社長から、ウルトラマンの海外利用権を譲渡するという契約書をもらった」と主張。「契約書を守れ」と主張するソンポート氏と、「真っ赤な偽物だ」とする円谷プロが真っ向から激突。97年から、10年以上も国際裁判になっていた。

 これまでは一勝一敗だった。日本の最高裁では04年、「社判は本物。契約書は効力を発揮する」と判決が出て、ソンポート氏が勝訴。ところが08年のタイ最高裁では「契約書は偽造であり、認められない」として円谷プロが勝ち、1070万バーツ(約3450万円)の支払いを命じられている。ソンポート氏は、01年に独自の『ウルトラマン・ミレニアム』を発表。キャラクターグッズを手広く販売していたが、お蔵入りに。ソンポート氏はウルトラマンの権利を、日本のユーエム社に譲り、同社が日本での裁判闘争を引き継いでいた。

 今回の裁判は、日本の最高裁判決を受けてソンポート氏側が07年に訴えたものだ。「円谷プロが契約書を無視して、ウルトラマンを海外で商品化したのは違法」として、12億5000万円の損害賠償を求めていた。"賠償額はかなり減ったが”、ソンポート氏側の主張が認められた格好になった。

 タイの最高裁とは全く逆の判決が出たことで、ソンポート氏サイドが一気に有利になったが、円谷プロが「はい、そうですか」と引き下がる可能性は低い。再び最高裁まで争うかもしれない。泥沼の決着が出るまではウルトラマンの海外展開に、大きな障害が出ることが確実だ。各メーカーは、円谷プロとソンポート氏側のどちらに商品化の許諾を取ればいいのか分からないからだ。

 この日に裁判所には多くの報道陣とともに、熱心な特撮ファンも駆けつけた。職場を抜け出して来たという30代の男性は「ずっと経緯を追いかけてたので、この判決には納得です。権利をめぐって二社の争いが続くことは悲しい。早く和解して、世界中の子供たちが気軽にウルトラマンを見れるようになって欲しい」と話していた。

円谷プロ法務部のコメント
「判決が確定するまでは今後の訴訟戦略上、コメントを差し控えたいと思っています。控訴するかどうかもお答えできません」

ユーエム社の上松盛明社長のコメント
「まだすべてが確定しない為、残念ですが、お答えする事はできません。私としては、日本の司法を信じ、判決を謙虚に受け止めたいと思っています」