『もしドラ』『ニーチェの言葉』…どうして今、哲学本が売れているのか?

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 巷で“哲学”がブームになっている。
 例えば、政治学者マイケル・サンデルが執筆した『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房/刊)が30万部を突破、ニーチェのポジティブな言葉を抜き出した『超訳 ニーチェの言葉』(白取春彦/訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)に至っては60万部のベストセラーとなった。さらに最近では講談社から『ヘーゲルを総理大臣に!』(小川仁志/著)が出版されたばかり。
 また、120万部を突破した『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社/刊)も、もともとは経済学者であるドラッカーのエッセンスを抽出、物語と融合させたものであった。

 このように、難解なイメージで敬遠されがちだった哲学者たちの言葉がとても身近になってきている。

 しかし、どうして今、このような本が売れているのだろうか。
 以前、『超訳 ニーチェの言葉』の人気について出版元であるディスカヴァー・トゥエンティワンに問い合わせたところ、これまでニーチェに触れたことのない20代が読者層が多く、ニーチェが新たな世代に受け入れられた結果ではないかと述べた。(記事はこちらから


■書店員はこの現象をどう読み解くか?

 では普段、読者と一番近くで接している書店員はどうだろうか。

 自己啓発書を多く揃える「読書のすすめ」店員である井手さんは、「一時期流行った “成功法則”関連の本を読んだ人が行き詰っているのではないか」と、読者たちの心理を指摘し、「成功法則は“夢の叶え方”までは叶えてくれるが、その後のことは教えてくれない。そうした人たちが答えを哲学がらみの本に求めているように思う」と分析する。

 一方で「話題になっているから買ってみようという人が多いと思う。売れるとお店も目立つところに置くしね」と、人気持続のスパイラルの要因を指摘する書店員もいた。
 しかし、こうした哲学の本が売れても、原典が売れるとは限らないのも事実。「『超訳 ニーチェの言葉』が売れ始めたときニーチェの文庫も売れたけど、哲学や人文全体が盛り上がったという印象はあまり受けないな。興味を持ったらどんどん読んで欲しいんだけどね…」とある文庫担当の書店員は本音を漏らす。


■話題性と、分かりやすさと、装丁と

 『超訳 ニーチェの言葉』はその分かりやすさがそれまでニーチェとは無縁だった若い層がヒットし話題となったことは言うまでもないが、さらにその人気に拍車をかけさせるのが装丁だ。「あれだけの分厚いハードカバーだし、読んでいるとカッコ良く見えるよね」と前述の書店員は話す。

 サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』も同じように分厚く、そしてハードカバー。この本については、『これからの「正義」の話をしよう』はNHK教室で放送された「ハーバード白熱教室」で話題になったこともあり、こうした仕掛けが現在の爆発的大ヒットにつながっているようである。

 ドラッカーの『マネジメント』をモチーフにした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』は、表紙にライトノベル風のイラストが掲載されており、書店でも一際目立つように仕組まれている。表紙から分かりやすさを醸し出し、その上にドラッカーへの興味を上乗せさせる。なるほど、ドラッカーに少しでも興味のある人は手を伸ばしてしまうだろう。

 もちろん、「読書のすすめ」の井手さんが指摘するように、既存の自己啓発本に対する行き詰まりもあるのかも知れない。


■ドラッカー、ニーチェの次はヘーゲルだ

 こうした中で、講談社から新たな哲学を分かりやすく解説する一冊が登場する。
 その名も『ヘーゲルを総理大臣に!』(小川仁志/著)だ。

 ヘーゲルは19世紀はじめの哲学者で、『精神現象学』『エンチクロペディー』といった、後の市民社会思想にとてつもない影響を与える本をいくつか著している。しかし、極めて難解でありそう簡単に読み解けるものではない。
 『ヘーゲルを総理大臣に!』では、ヘーゲル思想を分かりやすく現代的に噛み砕き、「格差社会」「働く意義」「お金を稼ぐ意味」「まともとは何か」「公共性」といった疑問に深く切り込んでいく

 本書で浮かび上がるヘーゲル思想の特徴は、ニーチェが“個人”、ドラッカーが“経営”にフォーカスしているのに対し、“共同体”という部分にフォーカスしていることだ。
 小川氏は「もしヘーゲルが総理大臣になったら、生きる権利を保障するために、国家としてできうる限りのあらゆる手段を講じるだろうと思います」と指摘する。

 装丁はライトノベルチックだが、中身は自らの生き方の指針を与えてくれる一冊となっている。
 この本でヘーゲルの大枠が理解できるのであれば、非常に安いもの。誰でも分かりやすく読むことができるだろう。自己啓発でもなく、ガチガチの哲学でもない本書を、是非読んでみて欲しい。
(新刊JP編集部/金井元貴)


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