【斉藤アナスイの抗議】兄弟間の差

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母が大切にしている、小さな茶碗があった。

それは兄が母にプレゼントしたものだった。当時小学校4年生の兄が、学校の行事で行くことになった一泊旅行。小さい茶碗は、そのおみやげだった。初めて家族以外と行った旅行での、初めての家族にあててのおみやげ。

母は、その茶碗を使わなかった。いや、正しくは使えなかったのだろう。大切だったのだ。その茶碗が、もう、使えないほどに。本当は使ってみたいけれど、もし壊してしまったら。だから、うんと大切だったのだ。

僕がその茶碗を壊してしまったのも、小学4年生のときだった。食器棚からコップを取ろうとした際、その茶碗に指をひっかけた。茶碗は床に落ち、かけた。

もちろん死ぬ程焦った。そして死ぬ程悲しかった。でも、僕は謝れなかった。悪いことをしたのは幼心に痛い程解っていたが、でも謝れない。それどころか、茶碗を壊したことさえ、僕は母に言えなかった。怒られるのがこわかったんじゃない。いやホントはそれもちょっとこわかったんだけど、それを知った母親が、どれだけ悲しむのか想像がついてしまったのだ。僕は、かけた破片をセロハンテープでくっつけ、また食器棚に戻しておいた。その夜は、ほとんど眠れなかった。

次の日、母はその茶碗を使って普通にご飯を食べていた。昨日落とした茶碗。セロハンテープを貼った茶碗。そして今まで使ったことのなかった、大切な茶碗。その茶碗で、美味しそうにご飯を食べていたのだ。

驚いたのは僕である。そしてそれでも何も言えなかったのも、恥ずかしながら僕である。そんな僕を見て母は言った。

「このお茶碗を使ってご飯を食べれるのは、お兄ちゃんのおかげ」

そして、更にこう言った。

「このお茶碗を使ってご飯を食べると、こんなに美味しいって気づけたのは、お前のおかげ」

僕はその瞬間から、もうおかしくなるんじゃないかと思うほど泣いた。僕は転んでも泣かなかった。茶碗を壊しても泣かなかった。でもその一言は、もうダメだった。顔を隠すヒマもないほどに、自分の部屋に逃げ込むヒマもないほどに。泣いたのだ。その優しさは、もうダメだった。

その年、僕にも一泊旅行に行く季節が来た。不安と楽しみが入り交じった心の中で、僕は一つだけ決めていたことがある。おみやげに茶碗を買おう。茶碗なんて二個あってもしょうがない。でも、僕は茶碗をあげたかったのだ。どうしても。兄からもらった茶碗は使い続けて欲しい。でも、僕の茶碗も食器棚のその隣に置いておいて欲しい。なんとなく、そう思ったのだ。

茶碗を渡したときの母の嬉しそうな顔は、今でも覚えている。兄にもらったときにどんな顔をしたのかは知らないが、きっとこんな顔だったに違いない。あげたほうが嬉しくなる様な、そんな笑顔だった。

そして兄のあげた茶碗は、母がご飯を食べるようの茶碗としてずっと存在し続けた。
そして僕のあげた茶碗は、犬が水を飲むようの入れ物として、4年後あっさりとその姿を変えた。

ずいぶんと長くなってしまったが、兄に比べて顔が可愛くない弟は大体こうなる、という話です。あ、全然いい話とかじゃないんで、ごめんなさい。顔があんまり可愛くない弟は、あげた茶碗とかもそんなに大事にしてもらえないっていう話です。

世の中には、似た兄弟もいれば似てない兄弟もいる。

昔の写真一枚を見ても、兄は可愛い。丸っとした顔に長い睫毛。まるで女の子のように写っている。「これと比べちゃうとなー」一人そんなことを言いながら、僕も自分の写っている写真をさがす。兄に比べ僕は昔から色黒で、顔が長い。だからちょっと、幼いころでもまぁ、そんな可愛かったとは言いがたい。写真を見るのも怖かったりする。そりゃあするんだけど。

ただね。いや、だからって、俺が写ってる写真がないっていうのはどうなのよ。ないのだ。僕が写っている写真が。「うわぁ、可愛くない子供だなー(笑)」とか自虐ネタを言う準備ができているのに、肝心の写真がない。そうですか、そこまで差別しますか。

次男が長男に比べ、というか、次に生まれた子が最初の子に比べ写真が少ない、というのはよくある話だろう。どれもが初めてだった体験も、弟になれば二度目。まぁ気持ちはわかる。で、俺そんな可愛くなかったもんね。わかるんだけど。ただ、いくらなんでも、ないっていうのはどうなのよ。

別に僕だけおかずが3品少ないとか、家でトイレを貸してもらえないとか、そんな目に見えて差別をされてたわけじゃない。僕だって可愛がってもらってたと思うし。でも、こう無意識のところで、出るでしょ。差って。

世の中には、妹のほうが可愛いとか、弟のほうがかっこいいとか、そんな境遇で行きて来た人も多くいるでしょう。海外旅行から帰ってきたおじさんのおみやげが、妹は服なのに私はお面(呪い)とか。姉のお下がりのはずなのにサイズ的にきつい(呪い)、とか。まぁそこそこのコンプレックスになっている人もいるんではないかと。

漫画とかだと兄がかっこいい(姉が可愛い)と、弟なり妹なりは頭がいいとか芸術性があるとか、そんな感じだったりするんですけどね。でも実際そんなことないじゃないですか。まぁうちの兄は、好きな遊びが「ゲームボーイを砂で埋める」っていう人だったんで、それよりはまぁそうなのかも知れませんけど。全然バランスはとれてない。

うちの母親は、嬉しそうによく「お兄ちゃんは私似」という台詞を口にする。その顔に腹が立ちはするが、客観的に見てまぁ確かに似ている箇所は少なくない。じゃあ俺は親父似なのかな。それもなんか照れくさいな。なんて思いながら、「じゃあ俺は誰似?」と聞くと

「サバの味噌煮」

との返事。高校を卒業したら家を出ようと思うには、十分な理由でした。母からのプレゼントは色々けっこー切ない。

(テキスト&イラスト 斉藤アナスイ)














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