アメリカでアニメやマンガが売れなくなった本当の理由

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今回は大原けいさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

アメリカでアニメやマンガが売れなくなった本当の理由
なんでアメリカでここ数年、マンガやアニメの売上げが落ちているのか? 輸出する側の日本の会社にとっては死活問題にも近いと思う。ナゼなのか知りたい?

いつも好き勝手に(汚い言葉で)書いているブログだが、時折「これって業界の人にとってはすごく貴重な情報だと思うんだけどな〜、タダで書いている私は偉いな〜、せめてマジメに読んで実際に役立てて欲しいんだけどな〜」と、思うことがある。

自画自賛じゃないけど、私は出版業界の仲間たち、つまりこっちの現場に身を置いている人たちから、直接“同じ業界のプロの人”として内輪話を聞いているわけだからね。そしてアメリカのマーケットの中にドップリ浸かって、一消費者として何が人気あるのか、どういうモノがウケるのか、つぶさに見ているし。

しかも、アメリカ人には「???」な日本的な思考や行動パターンや、そのバックボーンを成す日本文化も痛いほどわかる。そして誤訳、誤解のない情報を日本語で供給できる。日本のマスコミから記者がやってきてちょこっと取材したぐらいじゃわからないこともあるしね(私が時折、ツイッターで怒っているのは、万事テケトーなことを書いた記事が目に付くからだ。そいつらの購読者数を考えると、頭くるからだ)。

* * *

ポケモンが98年に大ブレーク、2002年にジブリの『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞をとったことで、アメリカでも「日本のマンガやアニメがクール!」という風潮は確かにあった。日本の方も「へぇ〜、けっこう意外なモノがウケるんだ」という驚きもあっただろう。

とりあえずマンガに限定して話をすると、2007年の年間総売上2億1000万ドルをピークにここ数年落ちている。リーマンショックの前だから、アメリカの不況とは関係ない。なんで売れなくなっちゃったの?とアメリカ人の人に理由をきけば、こういう答えが返ってくるはずだ。「The market is over-saturated.」

これを日本人の人にもっとわかりやすく説明すると、アメリカでも日本みたいに老若男女がマンガを読むのがあたりまえ〜になるんじゃないかと最初から期待しすぎた。どういうマンガが売れそうなのか調べもしないで、日本で一般書を出している感覚で“とりあえず色々ちょこっとずつ出してみた”のが裏目に出た。“マンガブームが起こるんじゃないか”と錯覚した、ということなのだ。ぜーんぶ、日本の供給側の責任だよ、ハッキリ言って。

まず、そもそもアメリカ人にとって初めて見るmangaがどういうものだったかを説明する。アメリカでコミック、といえばDCやマーベルが出している『スパイダーマン』や『スーパーマン』といった、ヒーローものが中心で、読者対象は男の子が中心だった。ぶっちゃけ、コミックは子供が読むモノ、だったわけ。

しかもこの“アメリカ人の男の子”というデモグラフィック、一番お金を使わない消費者層なんである。アメリカでティーンエイジャー向けにオモチャかゲームか、本が売れている、って場合は、その人気を支えているのは女の子の方なのだ。なにせ、彼女たちの方が若いときからベビーシッターをしたりして、男の子が買い食いしている間にしっかり貯金して、好きなモノにお金を使うのである。

そして、アメリカでいうYA(Young Adult)、ティーンエイジャー向けの本も、女の子に支えられているジャンルになる。今、こっちでは『トワイライト』シリーズがいまバカウケしてて、大人まで吸血鬼ものの読み物にドップリはまっているけど、これはそもそも『ハリーポッター』を10歳前後の時に読んだ女の子たちが、少し大きくなって淡い初恋なんぞを経験しているときに来たブームで、来るべきモノが来たというだけの話なんだよね。

だから、アメリカでマンガを出そうとする版元は、まず、男の子向けのマンガじゃなくて、女の子向けのタイトルをしっかり吟味して出していた。ちゃんと女の子たちが買えそうな値段に設定し、女の子に人気のあるメディアで宣伝して、ファンを育てていったと言える。

なのに、日本のマンガ供給側と来たら、少女マンガが売れるんだ、へぇ〜、なら少年ものもいけるンじゃん? と雑誌の『少年ジャンプ』まで出す勇み足ぶり。あのねぇ、男の子はヒーローもののアメコミを読んでいると言ったでしょ? それと市場で競合することになるってわかってた? そもそも、お小遣いだって大して持ってないんだよ。

そこで、日本は考えた。大人向けのマンガだっていいのがあるじゃん? 大人ならマンガ買うぐらいの金も持ってるだろ? とばかりに今度は『週刊モーニング』に連載されてそうなマンガをジャカジャカ出してみたわけだ。でも、大人のアメリカ人にとって、コミック=子供が読むモノ、という刷り込みがあるので、そんなに急にはムリだったんだよねー。日本の“グラフィックノベル”と位置づけるのならどうしてもニッチ的な、アングラな広がり方しかないのに。

アメリカの出版社は、少女マンガが受け入れられたので、この読者がどんどん大きくなって大人になっても読めるマンガが途切れないように、少しずつ読者といっしょに成長しよう、そして少年は、まずアニメで売れたものの原作からスタートさせようっていうスタンスだったのにね。

しかも少女モノといっても、日本には萌(も)え系、つまり大人が少女キャラを愛でるジャンルがあるわけだけど、性的表現に関しては厳しいアメリカのマスコミのことを全然わかっていなくて、いきなりビニ本にされてたりとかw。せっかくアメリカが、少女マンガ出しましょう、とコンテンツ探しているのに、いきなりエロマンガに出くわしたりするわけだ。そりゃ、引くだろ。

他にも問題は色々ある。例えば、日本ではまずマンガ雑誌に掲載されてから単行本になるので、どのぐらいの人気がある作品なのか、どのぐらいの部数がはけそうなのか見当がつけやすい。だけどアメリカにはマンガ雑誌というものがないので、いきなり単行本が出る形になる。それに日本は“下手な鉄砲”方式で、なんでも手当たり次第に出してみて、人気が出なければ数巻で打ち切り、ということをやったわけだ。

これってヒドくない? どんなに売れなかったタイトルでも、何百人も買ってみた読者がいるんだよ。それがけっこう好きだったかもしれないのに、出版社側の勝手な都合でいきなり、続きが読めなくなる。後は日本語でドーゾ、ってか? そんなことされたらどーよ? もう買わない、って思うようになってもしょうがないでしょ。

しかもそんなに急にタイトル数だけ充実させたって、書店だっていきなり棚を用意するわけにはいかないってことぐらいわからない? マンガが売れるのはわかっていても、どの棚を削るか、書店だって必死に悩みながらやってるんだよ? しかもマンガは立ち読みでさらっと読まれやすい商品だから、棚に人が集まってても肝心の売上げにつながらない、ってこともあるしね。

これは間もなく刊行予定の拙著にも書いたことだけど、確実に伸びていくジャンルやカテゴリーがある場合、ちゃんとその伸びしろに合わせて育てていかなくちゃ、育つものも育たないんだよね。何を期待しているわけ? ジャックの豆の木? もし、この先、電子書籍が日本でコケるようなことがあれば、それはマンガと同じ間違いを犯したってことになるから、そこんとこ、心しておくように。

ということで、なんで売上げが落ちているのか? という問いの答えは、“ちゃんとマーケティングをしなかったから”ってことにつきる。アメリカでマンガを売りたいのなら、どの層のアメリカ人がどんな本を読んでいるのか、どんな本なら売れそうなのか、どうやったら売れるのか、ちゃんと下調べをして、計画を練って、売り込む努力をしなければ、そりゃ「日本で売れたんですよ、コレ」なんて言っても売れないよ。

それが、やるに事欠いて、今度は経済産業省の後押しで『クール・ジャパン』計画と来たもんだ。今さら、ほんっっっっっっっとバカですね。

なんか、書いてて腹立ってきたからもう止めとく。ホントは海賊版の問題にも触れる予定だったんだけど、それはまた今度ね。

執筆: この記事は大原けいさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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