【斉藤アナスイの青春】女子との貸し借り

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女子に物を、借りる。そして女子に借りたものを、返す。

ただそれだけの行為に、中学生だった僕はどれだけワクワクしただろう。ただそれだけの行動に、あの頃の僕はどれだけドキドキしただろう。女子に「今度貸してー」と言われただけで胸が爆発しそうになり、女子に「今度貸してー」と言うだけで胸が爆発しそうになる。そう。そこには、確かに心があったんだ。

        -引用『私はイカになりたい』斉藤アナスイ



文字にしてしまえば「物の貸し借り」。数ある言葉の中でも、むしろ無機質にすら聞こえてしまうその言葉。でも、あの頃の僕にとっては、そこには確かにドラマがありました。女子に何かを借りるということは、「今までその子の家にあった」ものが「僕の家に来る」ということ。何かを貸すということは「今まで僕の家にあった」ものが「その子の家に行く」こと。女子と手さえつないだことがなかった当時の僕に、これがどれだけ特別なことかわかっていただけるでしょうか。

例えばCDを借りる。または、貸したCDが返ってくる。ということはそのCDは、女子の家を、また女子の部屋を経由していることになります。行ったこともない、想像もつかない彼女の家。

ではそんな特別なCDを手に、当時の僕はどんな行動をとったのでしょうか。僕は迷わず、そのCDを蛍光灯の下にそっと掲げました。まぁ少しばかり偏差値のほうが、アレだったんですね。「なんか名残りとか残ってないかな…」そんな気持ち一心で、CDを透かしてみようとしたんです。

「もうちょっとで、何かが見えそうな気がする・・・」

CDの使い方としては、完全に間違えていますね。そしてしばらくしてふと振り返ると、不審な目でこっちをジッと睨む親の姿。ど、ど、どうしよう。僕は大声で「ラー!テンニャー!」などと歌い、『ライオンキングのマネ』というひどい言い訳でごまかしたのを、今でもはっきりと覚えています。

女子にCDを借りる場合、大半はそのアーティストに興味なんかありませんでした。ひどいときは、名前を聞いたことすらない。それでも借りるのは、本当にただ「借りた」という事実が欲しかっただけなんですね。ほかの男子は知りませんが、少なくとも僕はそうだった。そこにあるのは、「あの子の家のものがうちに来る」という思いと、「これはもしかしたら距離を縮めるきっかけになるんじゃないか」というやましい気持ち。あんまり興味ないしよく知らないけど、とにかく借りたい。だからその時の会話の感じとしては、

僕「最近どんな音楽聞いてるの?」
女子「んーレッチリとかかなぁ」
僕「レ?・・・あーレッチリン(鈴のイメージ)ね!」
女子「は?レッドホットチリペッパーズだよ?」
僕「あー、はいはいチリのね!」
女子「もしかしてレッチリ知らない?」
僕「いやいや、知ってっし!俺レッチリ結成する前から知ってっし!マジ超好きだし!」
女子「だよねー!で、最近出たアルバムが超よくてさー」
僕「マジでー!?じゃあ今度貸してよー!」


こうですね。まぁ、見るにたえない。本人が気づいてないだけで、1から10まで格好悪い感じです。で、返すときは、

僕「あ、CDありがと!」
女子「いいえー。どうだった?」
僕「え?あ、うん、すっげぇよかったよ!」
女子「そかそか。何曲目が好きだったー?」
僕「あー、やっぱり4曲目かな!」
女子「ずいぶんシブいとこ突くね(笑)」
僕「ズン!なんつって!」
女子「・・・?でもわかってもらえて嬉しいよ」
僕「ホントよかった!他にもレッチリンのCD持ってたら貸してよ!」


こうですね。まぁ正直なとこ、実際は1回も聞いてないんですけど。今なら本当にレッチリがスゴいバンドだってことも知ってるんですよ?でも当時の僕、CDデッキすら持ってなかったんですよね。まぁ「エロかっこいい」的な感じで言えば「キショせわしない」って感じですかね。

じゃあ逆に貸すときはどうか。これも、借りるときと同様です。とにかく貸したい。面白いとかお勧めしたいとかではなく、ただ単純に貸したい。もう煩悩しかない。だからその時の会話の感じとしては、

僕「最近どんなマンガ読んでるの?」
女子「んーなんだろ。でも『彼氏彼女の事情』は読んでみたいなー」
僕「あれね!相川七瀬の!めっちゃいい曲!」
女子「それ『彼女と私の事情』だよね。カレカノ、知らない?」
僕「いやいや、知ってっし!最初にそう略したの俺だし!むしろ全巻持ってっし!」
女子「マジで?面白いの?」
僕「笑えるというか、泣けるというか。和むっちゃ和むし、和まないっちゃ和まない感じかなぁ」
女子「へーいいなー」
僕「よかったら貸そうか?」
女子「ホントに?」
僕「うん、明日学校持ってくるよ!」


こうですね。で、その後は「がっこうを 出たその足で ブックオフ」。偶然にも五・七・五になってしまいましたが、ブックオフに猛ダッシュ。いや、だって俺それ持ってないし。もちろん読んだこともない。で、いざブックオフ行くんですけど。えぇ、もちろんカレカノを買いにですね。だって貸したいじゃないですか。貸したいんですよ。しかしねぇ。これがまた、なんか全部で20巻ぐらいある。買うのはまだしも、

俺これ明日学校持っていくのかー。通学カバンには入らないし、伊勢丹の紙袋かなー(当時は伊勢丹の紙袋が一番オシャレだと思っていた)。でもそしたら友達に冷やかされるかなー。とか色んなことを考える。

で、ようやく決心して買おうとしたら、6巻だけなかったりするんですよね。6巻だけ『おぼっちゃまくん』でもいいかな、とか一瞬考えるんですけど、まぁいいわけがなくて。6巻だけ普通の本屋で定価で購入。この歳の子にとってはかなり痛い出費ですね。でね、いざこれだけ苦労して貸したら、その女子は

「こいつマジで持ってきやがった・・・」

みたいな顔。何なんですかね。

マンガを貸すとき(または返すとき)はとくに気を使いましたね。ページとページの間に、何か挟まっちゃいけないものが挟まってらどうしよう…って。ホラ、しおり(悪い意味で)とかね。1P1P確認していくんです。もし挟まってたら、その子との仲どころか学校で居場所がなくなりますから。何か挟まっちゃいけないもの。ホラ、押し花(暗喩)とかね。

でね。やっぱり、中学生って勘違いとか甚だしいじゃないですか。特に男子はもうヒドい。こう、女子からマンガが返ってくるでしょ。そしたらね、ドキドキしながら家に持って帰って、調べるんですよね。この、家まで見ないようにする感じも直視しがたいんですけど。いそいで家帰って、調べる。その、何て言うかな・・・もしかしたら手紙(!)とか、入ってるんじゃないかって。もちろん下校中は、走りながら「手紙を読んでる自分」の妄想でいっぱい。結果から言えば、入ってたことなんてないんですよ。冷静に考えたら入ってるわけないんですけども、でも期待しちゃう。ラブレターとか、ねぇ。「フルーツオレ」のレシートなら一回入ってたことあるんですけどね。いやーバカだなー。ひどいな。

女子との貸し借り。たったそれだけのことでも、当時の僕にとってはやっぱり特別だったんです。そうですね、あとはとくにないかなぁ。僕の「青春時代の素敵な思い出」って、誰に言ったら返してもらえるんでしょうか。


(テキスト&イラスト 斉藤アナスイ)











































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