出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
 第20回は新刊『本日は、お日柄もよく』(徳間書店/刊)が好評を博している、作家の原田マハさんです。
 前回は原田さんによる、素人でもできるスピーチの極意を教えていただきましたが、最終回となる今回は小説家となったきっかけや影響を受けた本を紹介してもらいました。


■自分の小説は、迷っている人の背中を押してあげられるような作品であってほしい

―原田さんのプロフィールを拝見させていただきましたが、「飛び込みで〜した」というのが多いですよね。最初に勤めた美術館も飛びこみで「雇ってください」と訴えた、ということでしたし。

原田「何やってんだという感じですよね(笑)好奇心が強いというか、むこう見ずなところがあるんですよね。“こんなことやってみたらどうかな”と思ったらとりあえずやってみる、アプローチしてみる、そういうのを厭わないところはあります」

―でも、実際に行動できる人はなかなかいないものですよ。

原田「そうでしょうね。でもやってみてほしいです。だってダメ元じゃないですか。やってダメなら仕方ないし、もしかしたらうまく行くかもしれない。ワンアクション起こすか起こさないかというところで、私はずっとアクションを起こしてきました。だから、そういう風に迷っている読者の方がいたら背中を押してあげたいですね。迷っている人ってみんな本当はやりたいんですよ。私が書いている小説も、迷っている人の背中を押してあげられるような小説であってほしいと思っています。何か行動を起こす気持ちになれる小説を書かなかったら私にとってはウソだなと思いますね」

―確かに、大事なことですね。

原田「若い人でも、なかなか行動を起こさない人が増えていると思います。恥をかいたら嫌だとか、失敗するに決まっているとか、めんどくさいとか、変化しないことを望んでいるように思えます。この小説でも、スピーチに感動した(主人公の)こと葉が行動を起こしたことでドラマが生まれました。小説の中のお話ですけど、人生ってそういうところがありますよ。だから若いうちはどんどん行動してどんどん失敗しなさい、と。まだ取り返しがつきますから。私くらいの年代になると段々取り返しがつかなくなるんですけど(笑)それでも“行動を起こして失敗したとしてもいいや”と思えるうちはやってもいいと思うんですよね。何歳になっても」

―原田さんが小説を書くようになったきっかけがありましたら教えてください。

原田「文章を書くのは子供のころから好きでした。私は兄が小説家で、彼は子供の頃から小説家になると言っていて、26、7歳でデビューしちゃったんですね。言った通り夢を叶えたという意味で、私は驚きと憧れを持ちつつ兄を見ていたんです。ただ、彼が行く道をマネして追いかけていくのはいかんな、というのもあったんです。兄が作家として成功していくなかで、そのいい部分も悪い部分も見せてくれて“いつか文章を書くことになるかもしれないけど、そんなに急いでやらなくてもいいだろうな”という気持ちになりました。アートの仕事も面白かったですし。でも、40歳になるのをきっかけに森美術館を辞めたんです」

―それは、何か理由があって、ということでしょうか。

原田「女性の40歳〜50歳って一番いい時期だと思っていて、その一番輝ける10年間に自分ができることって何だろうって思ったんです。キュレーターのまま成功していくっていう道もあったと思うんですね、もちろんそれもいいことなんですけど、でも一度しかない人生なので絶対後悔がないように、と考えたんです。
森美術館にいた時は課長職で、それなりの収入があって、部下がいて、いいポジションで、いい仕事ができていたと思うんですね。でもそれが私の人生の全てで、このままレールに乗っていていいのか、と。その時は本当に考えつくすまで考えました。北海道に鶴まで見に行っちゃいましたから(笑)
タンチョウヅルに向かって“これでいいの?”と聞いたら鶴が「クァ〜ッ」と鳴いたんですよね、それで“これがツルのひと声だ!”と思って森美術館を辞めちゃった(笑)収入もポジションも全部捨てて素の自分に戻ったところでやり直してみようと思った時に、文章が書きたいと思ったんですよね。それで、チャンスがあればアートの分野でライターをやってみたいと思っていたら、実際に仲間を通じてチャンスをもらえたんですね。大体二年半くらいアートライターとかカルチャーライターをやって、書く自信がつき始めた頃に、記念として一本小説を書いてみようかな、となったんですよね。それで兄にも誰にも秘密で書いたのが『カフーを待ちわびて』でした」

―原田さんが人生で影響を受けた本がありましたら3冊ほどご紹介いただけますか。

原田「そうですね、大江健三郎さんの『新しい人よ目覚めよ』と、それから谷崎潤一郎さんの『細雪』。もう一冊はパッと出てこないですけど…東山魁夷さんは画家ですけどすごく随筆もうまいんですね。彼が書いた『風景との巡り合い』という本はずっと持っていますね、ずいぶん影響を受けたと思います」

―これからどんな作品を書いていきたいと思っていますか?

原田「読んでくれた方が“人生も悪くないな”と思えるような、最後は前を向いてくれるような小説を書いていきたいです。あとは時代物など、いろいろなジャンルに挑戦してみたいですね」

(新刊JP編集部/山田洋介)

(第1回 「スピーチの持つ力というものを前面に出した小説を書きたいと思った」 を読む)
(第2回 素人でもできるスピーチの極意 に続く)

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