紀伊國屋書店 新宿本店 ピクウィック・クラブさんに聞く『社長になりたい人に読んでほしい3冊』
 世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらうのが毎週水曜日に配信する、この「わたしの3冊」だ。 【「わたしの3冊」バックナンバーはこちらから】

 9月のテーマは『社長になりたい人に読んでほしい3冊 』。
 今週登場してくれたのは紀伊國屋書店ピクウィック・クラブ!もはやこのコーナーではおなじみの彼らはどんな本を紹介してくれるのか?


◆『ハルムスの世界』

著者:ダニイル・ハルムス/翻訳者:増本浩子、ヴァレリー・グレチュコ
出版社:ヴィレッジブックス
定価(税込み):1995円

 社長になりたいと思っているような人は、やっぱりいろいろな努力を各方面でしているのだろうと思います。なのできっと時間がないだろうことは想像に難くなく。今回はそんな方でも気軽に読める本書『ハルムスの世界』を推させていただきます。
 著者ダニイル・ハルムスは20世紀ロシア(ソ連)の作家。独裁制期の憂き目を見て長らく封殺されていたがペレストロイカによって封切られ、不条理文学の先駆者として広く読まれるようになった、とのこと。この辺はブルガーコフなんかと同じですね。境遇的にはロシア・アヴァンギャルドに含まれるのかな。そっち方面の本ではあまり見かけない気もしますが。
 恥ずかしながら私もハルムスは本書で知ったクチでして、調べてみると意外なことに邦訳が幾つかあった。また未読ですが『ズディグルアブルル―ハルムス100話』(未知谷)が本書とほぼ同時に発売されています。さてその作品ですが、形式的には短篇集をさらに短くした掌編・断片集で、ちょっとした思いつきを、今ならtwitterなんかでうまいこと言ってみたてなもんですが、その域に落とすのではなく著者ならではの小咄ふうに仕上げたていとなっております。ひとつひとつの掌編同様、編者の構成や装丁にもコンパクト感が充溢していて、とてもいい。紙媒体の面目躍如といったところですか、トイレに常備できますし。そこでぽつぽつ拾い読みしていくだけでも楽しく読めてしまいます。
 肝心の内容はというと、あらすじにできない短さなので読んでもらったほうが確実に早いのですが、上で著者ならではと書きました、その思いつきにこめられたユーモアに爽快感があります。
 読みながら何度吹きだしたか知れません。笑いというとどうしても攻撃的な側面を見がちですが、バカ笑いといいますか、ある種スポーツのような健康さが本書のユーモアにはあります。
 似たようなところだと、星新一のショートショートとはかなり近いのですが、ただ星新一の作品の一部は私にはどうしても嫌味に感じられてしまう。寓話の皮をかぶったdisり合いみたいに読めてしまうのです。この辺は『星の王子さま』なんかも同じで。ハルムスと彼らとの違いはどこから来るのでしょうね、風土的な問題かしら……。他方でサン=テグジュペリだと『人間の土地』『夜間飛行』なんかは面白く読めるので、不思議なものです(あ、『夜間飛行』は社長になりたいと思う人なら必読の書ですよ!)。その辺を考察していっても面白そうですが、時間がないのでそれはそれとして。
 社長クラスの人間ともなると仕事に忙殺され、必要なこと以外はどんどん切り捨てて行かざるを得なくなってしまうのでしょうが、そんな稠密な日々のなかでも無関係なものへの視点、そこから生まれる笑い・ユーモアを忘れて欲しくないですね。追い詰められたときにこそ、そういのは必要に、いや、必然になってきますので。本書を推す裏の理由として、そんなことも思った次第です。
 

◆『悪童日記』

著者:アゴタ・クリストフ/翻訳者:堀茂樹
出版社:早川書房
定価(税込み):693円

 上に立つ人には常に冷静であってほしい。状況や部下に対して感情的になると頑固になるし判断も鈍ってろくな結果にはならない。この小説は、作者が母語ではない外国語で書いたということもあり、文章は実にシンプルである。しかし、だからといって内容が薄っぺらい訳では決してない。むしろ、戦時中という非常事態の状況で、淡々と語られる文章は非常であり異様にさえ感じる。
 双子の子供が学習のために行った作文の演習には、「内容は真実でなければいけない」という極めて単純なルールがある。彼らの作文には感情ないのだ。そして、この小説はそんなルールに則って書かれている。それなのに読者には感情が溢れてくるのはどうしてだろう。『悪童』というタイトルも印象的である。双子は悪童ではないし、おばあちゃんも魔女ではない。だけど、戦争は戦争だ。
 感情が入り込まないようにすることはとても難しい。嫌なものは嫌だと思ってしまいがちである。それが功を奏することもあるだろうし、またその人の魅力になるかもしれない。だけど、上に立つ人には彼らのように物事に動じない人であってほしいと僕は思う。


◆『獣の樹』

著者:舞城王太郎
出版社:講談社
定価(税込み):1449円

 社長にまで上り詰めるにはどうすればいいか。実を言うと私は社長の経験が無いので飽くまで予想に過ぎないのだが、その目的のためにはおそらく一筋縄ではない能力が必要になるのではないだろうか。 例えば、確実に論理的に仕事をこなす実直な正確さだけではなく、時には非常識なまでに大胆な冒険を行うことができるような。あるいは例えば、野心に燃えて猛然と突き進むことができる熱い心だけではなく、そんな自分を冷徹な目で監視し評価できる客観性をも備えているような。おそらく片方ではいけないのだ。相反する能力の両方が必要なのである。そんな能力を持ち合わせている人物/小説として、まず思い浮かぶのは舞城王太郎である。舞城の小説こそが帝王への道に違いない……と私は思う。これ以上の事は、他のきちんとした社長経験のある選者にお任せしたいところだ。


◇   ◇   ◇

【今回の書店】
紀伊國屋書店 新宿本店

住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

■ウェブサイト
http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm


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