素人でもできるスピーチの極意―原田マハインタビュー(2)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』
 第20回は新刊『本日は、お日柄もよく』(徳間書店/刊)が好評を博している、作家の原田マハさんです。
 前回は原田さんがこの作品のテーマとなっている“スピーチ”に着目されたきっかけを語ってもらいましたが、今回は素人でもできるスピーチの極意から、原田さんのキャリアの原点であるキュレーターというお仕事について聞いてみました。


■党首討論「こういう風にやってほしい、というのを小説の中で表現できてスッキリした」

―原田さんご自身はスピーチは得意ですか?

原田「いやいや(笑)他人の原稿を書くのはそんなに下手じゃないとは思うんですけどね。この小説に出てくる“スピーチの極意十箇条”を作った後に一度話す機会があったんですけど全然できませんでしたね。十箇条の六つ目の、聴衆が静かになるのを待ってから始めるというのが結構苦しいんですよ。あの十箇条を全部守れる人はほとんどいないと思います」

―今おっしゃっていたオバマさん以外ですと、一番スピーチがうまいと思うのはどなたですか?

原田「AppleのCEO、スティーブ・ジョブズですね。彼は神がかり的にうまいです。スタンフォード大学で卒業生のために行った名スピーチがあるんですけど、すごいですよ。最後に“Stay hungry, stay foolish.”って言うんですけど、それがそのままアップルのキャッチコピーになってしまいそうな感じです。
構成としては、自分の人生を通してこんな風に世界を変えたいと思ってきた、ということだけでなく、離婚したことやガンになったことなど、自分の負の部分もスピーチの中で前面に出してから、“でも今の自分があるのは幾度もの挫折があったからだ”いうように、学生たちを鼓舞するというものだったと思います。ウィットも入っていたし、英語の使い方もうまくて、楽に聞けるんですよね。
スタンフォードの卒業式のスピーチってすごい名誉なんですよ、普通だったら格式ばってしまうところで“バカでいろ”って言える人はなかなかいないですよね。そういう心に残るキャッチフレーズを言えるっていうことはすごく強いと思います」

―僕もそろそろ周りの友人が結婚していく年齢で、もしかしたらスピーチの機会があるかもしれませんので、何かアドバイスをいただけませんか?

原田「ぜひ“スピーチの極意十箇条”を使って乗り切って下さい(笑)腹から声を出して、会場全体を見渡しながら話す、などは実行しやすいと思います。原稿を全文暗記するというのは難しいので、ポイントポイントだけ暗記して、後は自分の言葉で話すのがいいと思いますよ」

―本作の中にはすごく印象的なスピーチがいくつも出てきますが、こういったスピーチを考えるのは大変ではなかったですか?

原田「ドラマを見ているような感じで場面を想像しながら作っていましたが、楽しかったですよ。ダメなスピーチとの対比をはっきりさせることもおもしろかったですし、作中に国会でのスピーチもあるんですけど、それを作るにあたって国会の党首討論を取材させてもらったりしたのも、未知の領域に踏み込んでいく感覚が新鮮でした。
党首討論ってテレビで見るともどかしいじゃないですか。でも“こういうふうにやってくれよ”というのを小説のなかで表現できたのでスッキリしましたね(笑)」

―原田さんはかつて美術館でキュレーターをされていたということですが、美術の世界に入ろうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

原田「もともと自分で絵を描いたり文章を書くのが好きで、画家や漫画家になりたいと思っていました。コツコツ漫画を書いて、漫画雑誌に応募したこともあったんですけど、やっぱり天性で漫画がすごくうまい人と比べると全然大したことはなくてプロにはなれなかった。だけどアートの近くにはいたいということで、キュレーターの道に徐々に入っていったんです。最初はアートの勉強も独学だったんですけど、後で早稲田大学に学士入学で入り直したりして、何とかキュレーターになり、森美術館の開設準備室に勤めさせていただいた、という流れです」

―キュレーターというお仕事の醍醐味はどんなところにありましたか?

原田「現場感ですね。展覧会を作ったり、アーティストと交渉するっていうのが主な仕事です。例えば作家だったら、自分と向き合ったり、内向きなところがありますけど、キュレーターは現場で人とコミュニケーションをすることがすごく多いんですよね。アートの研究をすることももちろん楽しいことだったんですけど、現場で様々な交渉をしたり、作品を展示したりということがすごく楽しかったです。そういった意味では編集者に似てるかもしれないですね」

(第1回 「スピーチの持つ力というものを前面に出した小説を書きたいと思った」 を読む)
(第3回 自分の小説は、迷っている人の背中を押してあげられるような作品であってほしい に続く)


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