台風9号の猛威の気配重厚。鈍色の雲の覆われた空を眺めながら本日も妖怪たちの声を聞く。山の木々がぴくりとも動かない。この天気で風がないのは逆に不気味だ。嵐の前の静けさというやつなのだろうか。

 水木イズム第九十一回。残すところ、今回含めて後六回となった。来週には終わりを迎えることになるのであろう。この水木イズムによって妖怪学に目覚めた方は居られるのだろうか。一人でも居られたら、当紙記者としては自分で自分にご褒美をあげたい気持ちである。

 前回は「大元神」に関する講釈をさせていただいた。今回は、一反もめんの天敵とも言える妖怪の講釈をさせていただこう。そんな今回紹介するブロンズ像はこちら。

 「お歯黒べったり」である。お歯黒とは、元は女性が成人した時に貴族が行っていた風習であり、江戸時代では既婚女性が行っていたものである。鉄漿水と呼ばれる酢酸に鉄を溶かした溶液で歯を染色することを言う。

 お歯黒べったりは、花嫁の姿をしている。しかし、どんな顔かなと覗き込もうものならば、お歯黒の口以外何もない顔がそこに待っているという寸法である。言ってしまえば、のっぺらぼうの仲間だ。のっぺらぼうに、お歯黒というオプションが付けられているのである。

 お歯黒べったりは、文化の変容が生み出した妖怪だと言える。今ではお歯黒をつけている方を見ることはない。正に廃れた文化だ。冒頭で一反もめんの天敵と銘打ったのは此処である。一反もめんを倒すためにはお歯黒をしたことがある歯が必要だ。一度でもお歯黒をしていれば一反もめんを食い破ることが出来るのである。

 その為、一反もめんが出る地方では男も女も関係なくお歯黒をする風習があったとされている。だが、今ではお歯黒の風習が無くなってしまっているのであるからして、一反もめんの天敵はこの妖怪お歯黒べったりぐらいであるということなのだ。

 お歯黒も本来は流行っていた文化であった。しかし、文化には流行り廃りがある。今は格好いいとされている文化も数年後、数十年後、数百年後には恐怖の対象となるものもあるかもしれない。美白、ガングロ、或いは染髪、脱色。他には入れ墨。こうしたものは今は流行っていたとしてもいずれ廃れるかもしれないものである。

 その廃れたとき、廃れてから何故それが流行ったのかを語れるものが居なくなったとき、違う理由を騙るものが現れるのである。その騙りが妖怪を生み出すのだ。ともすれば、既にガングロギャルメイクあたりは新しい妖怪として騙られはじめているのではないだろうか。

 あれは見た目に不気味だ。お歯黒と対を為す現代文化である。あんなものが夜道で駆け寄ってきたら、とりあえず手に持っているもので殴打したくなるほど恐ろしい。褐色の肌というのは健康的でよろしいのであるが、ガングロにギャルメイクの組み合わせは人を恐怖に陥れる以外の目的で施す理由が分からない化粧だと言いたい。

 しかし、そうした文化の変遷が妖怪を生み出すのであるからして、あれを行っている勇気ある少年少女たちは妖怪を生み出した功労者に成りうる存在だと感謝しよう。ああいった文化の特質者が文化を面白い方向に広げてくれているのは事実である。

 妖怪はそうした文化の変遷を強く感じさせてくれる存在だと言えるだろう。


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水木イズム バックナンバー
第八十六回「針女」
第八十七回「倉ぼっこ」
第八十八回「小豆はかり」
第八十九回「豆狸」
第九十回「大元神」

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