“障がいを持っているいない関係なく妹は妹だから”―『イルカの子』刊行記念トークイベントをレポート
 トールペイントによる優しいタッチの絵に添えられた、とある兄妹のお話。
 知的障害をもって生まれてきた妹と、真っ直ぐな気持ちで妹を守ろうとする兄の絆を描き、話題となっている『イルカの子』(姫野ちとせ/作、主婦の友社/刊)の刊行を記念したトーク&サイン会が9月5日、ブックファースト新宿店内「BLUE SQUARE CAFÉ」で行われた。

 このトーク&サイン会は、『イルカの子』ポストカード購入者を対象に、先着40名が参加できるイベント。当日は家族連れを中心に、「インターネットで『イルカの子』を知って」イベントに来たという10代の女性など、40名以上の観客が入り客席は満員となった。


■“どんな人にもその人の役割がある”という担当編集者の想い

 まずは、『イルカの子』の担当編集者である廣畑暁子さんから、復刊のエピソードから披露された。

 廣畑さんは自身も障がいを持つ子どもがいることを告白。そんな中で『イルカの子』と出会い、「息子にも、娘にも、役割があって生まれてきた。それをしっかりと受け止めていかなければいけない」と教えられたという。
 廣畑さんの心を動かした『イルカの子』だったが、実は2005年に出版された直後に出版元が倒産、“幻の絵本”としてインターネット上で根強い支持を集めていたという。廣畑さんは自分を救ってくれた絵本をもう一度世に出すべく、自身で会社に掛け合い、仲間たちからアドバイスをもらいながら復刊にこぎつける。

 復刊後、自分と同じように苦しんでいた多くのお母さんたちから届いたお便りを、涙を浮かべながら読み上げ、「この本の復刊に携われて本当に幸せでした」と話した。


■“障がい児でも健常児でも妹は妹だから”―兄の見ていた景色

 続いては作者である姫野ちとせさんと、『イルカの子』の主人公で真っ直ぐで純粋な妹をいつも見守るお兄ちゃん・佳介さんにより、『イルカの子』の誕生秘話や復刊時の感想などが語られた。

 佳介さんが「妹とは2つしか歳が離れていないからかも知れないけど、障がいとか健常という前に、僕にとっては物心ついたときから妹なんですよね」と話すと、姫野さんは「障がいを持っている持っていない関係なく接する兄を見て、娘は娘のままでいいんだということに気付きました」と当時をふり返った。
 また、佳介さんは先生からの言うことはほとんど聞かない、ちょっとした“問題児”だったそうだが、姫野さんは「この子(佳介さん)がいてくれたおかげで、娘はいじめられなかった。何か言われようものなら、“俺の妹だけど、何?”って言ってくれて」と話し、家族の強い絆をうかがうことができた。

 最後に、姫野さんが「“イルカの子”を大事にしたら、不思議に良いことがいっぱい降ってきます」とコメントしたが、この家族の絆こそが、“良いこと”なのかも知れない。


 トークイベントの終わりには、普段ハードロックバンドのベース&ヴォーカルとして活動しているという佳介さんによる弾き語りライブが行われ、「Birthday」「Home Sweet Home」「明日のこと」という3曲のオリジナル楽曲を熱唱。客席からは惜しみない拍手が注がれた。

 サイン会終了後、姫野さんが「何か夢みたいな時間でした。こんなに足を運んでくださる方がいるなんて思わなかったから…」と言うと、佳介さんは「恥ずかしかったです」と笑いながら一言。記者が姫野さんに「是非、音楽活動のほうも応援してあげてください」とお願いされる一面もあり、どこまでも良い家族だと思わせてくれた。

 「メッセージのある絵本は死なない」―イベント会場の開場前に、たくさんの家族連れを見て出版社の方が言った言葉だ。その意味は、絵本はいつの時代も親から子に受け継がれていく。だからすぐに忘れ去られることはなく、ずっと心に残っていくということだ。
 『イルカの子』もイベントに訪れた人たちはもちろん、本作を読んでいる全ての家族の中で、受け継がれていくに違いない。
(新刊JP編集部/金井元貴)


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