中国工程院院士の鐘南山氏は、ほとんどの抗生物質が効かない遺伝子「NDM1」を持つ新耐性菌が、中国では極めて容易に広まる恐れがあるとの見方を示した。抗生物質の乱用が大きな問題という。チャイナネットが報じた。

 新耐性菌はインドや東南アジアで感染例が目立つようになり、日本でも独協医大病院(栃木県壬生町)が6日、2009年4月から10月まで同病院に入院していた患者から検出されたと発表した。

 鐘氏は、「抗生物質が効かない菌は往々にして、人々が抗生物質を使いすぎることで発生する」と指摘した。鐘氏によると、中国では規模な大きな病院で使われる薬の、半分程度が抗生物質。しかも、ウイルス性で抗生物質では効果がないインフルエンザなどにも、抗生物質が処方されることが多い。また、農業や漁業などの産業でも、抗生物質が大量に使われていることも、新耐性菌が広がる素地になっている。

 鐘氏は、中国では1年当たり21万トンの抗生物質が生産されており、1人当たりの消費量は米国人の約10倍と指摘。「本当に抗生物質が必要なケースは、現在の消費量の20%以下。80%以上は乱用」との考えを示した。

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◆解説◆ 抗生物質は、微生物の増殖を抑制する物質。史上初の抗生物質として1929年に発見されたのはアオカビから抽出されたペニシリンで、ブドウ球菌などへの効果が実証された。1943年に発見されたストレプトマイシンは、結核治療に「革命」をもたらした。

 一方、生物と非生物の境界にある、極めて小さな病原体であるウイルスに、抗生物質は効果がない。鐘南山氏は、中国では大病院でもウイルスによる感染症に対して抗生物質が処方されていると指摘した。

 中国ではかつて、医師の処方がなくとも抗生物質が市販されており、ウイルス性のSARS(新型肺炎)が流行した2002−03年にも、抗生物質が爆発的に売れた。(編集担当:如月隼人)



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