結局、オバマの演説は何がよかったのか?―原田マハインタビュー(1)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』
 記念すべき第20回は、『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞、先日発売された新刊『本日は、お日柄もよく』(徳間書店/刊)も好評を博している、作家の原田マハさんが登場してくれました。
 この作品でテーマとして取り上げたのは“スピーチ”や“言葉の力”。
 実は原田さんと“スピーチ”には意外な接点があるようで…。


■「スピーチの持つ力というものを前面に出した小説を書きたいと思った」

―本作『本日はお日柄もよく』を楽しく読ませていただきました。本作は“スピーチ”というものがテーマになっていますけども、スピーチというものは話し方でこれほど変わるものなんですね。

原田「そうですね。日本だとスピーチってマニュアル本があって、それを元に何とかかんとか話すという感じで、そんなに重視されていない傾向があります。その中で新しいチャレンジができたのかな、とは思っています」

―今まであまりスピーチというものに関心を持っていなかったのですが、これを機にちゃんと聞いてみようかな、と思いました。

原田「面白くない人のスピーチは聴かなくてもいいんじゃないですか(笑)?聞いてみる価値があるな、と思わせてくれるスピーチをする人があまりにも少ないので、この本がきっかけになるかはわからないですけど、面白いスピーチをしてくれる人が増えるといいな、と思いますね」

―やはり、面白いスピーチをする方は少ないものですか。

原田「少ないですね。スピーチはライブなものなので、だからこそパフォーマンス次第ではその場にいる聴衆が一斉に引きつけることもできるし、その瞬間にアイデアが変わることもあります。残念ながら今日本人でそういう名スピーチをする人はいないですね。昔は田中角栄っていう人がいましたけど。あ、でも小泉進次郎さんはいいらしいですよ」

―そうなんですか?

原田「私もちゃんと聞いてはいないんですけど、この前の選挙戦の時もかなりうまかったみたいです。進次郎さんに期待したいですね」

―今回“スピーチ”を題材に小説を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

原田「私は六本木ヒルズの森美術館の開設準備室に勤めていた時期があったんですけど、オーナーの森社長が美術館のパーティーなどでスピーチをする機会が結構あったんですね。その時に私がそういったスピーチの原案を書いていました。この本に出てくるスピーチライターのように、原稿を書いて、話す人にパフォーマンスをしてもらうということを実際にやっていて、それが結構快感だったんです。原稿を書くことも面白かったし、スピーチは時と場合によっては人を動かす力があるんだなっていうのが実体験としてわかったので。

それと、アメリカにはスピーチライターという仕事が存在するっていうのは知っていたんです。今回の小説を書き始めようと思っていた頃、ちょうどオバマさんとヒラリーさんが大統領候補を争っていた時だったんですよ。それで、ヒラリーさんとオバマさんのスピーチを聞き比べてみたんですけど、明らかにオバマさんの方がうまかったんです。

アメリカはスピーチ大国って言われているだけあって、しゃべって人を喚起したり、コントロールしていくっていうのが、割と民族的にできるんですよね。小学校でもディベートのクラスがあったりして、小さい頃から自分の意見を述べることや人の話を聞くことを学習して育っているので。
そういう中で彼らの舌戦を見ると、“やっぱりすごいな”と思いますよね。それで、調べてみたらオバマさんには28歳の若いスピーチライターついていて、しかも彼はスピーチ原稿をスターバックスで書いていたらしいんですね。世界を動かすかもしれないスピーチの原稿をスターバックスで書くなんて面白いじゃないですか。そこで、スピーチの持つ力というものを前面に出した小説を書いてみたいと思ったのが最初のきっかけですね」

―ヒラリー氏とオバマ氏のスピーチの差はどんなところにあったのでしょうか。

原田「これはマスコミ報道でも言われていたことですが、スピーチの場面、特に選挙とか大きなスピーチになると、自分をどう押し出していくかというのが大事になるじゃないですか。だから主語が“I ”になるんですよ。“私だったらこうする”“私のポリシーはこうだ”というように。でもオバマさんは“I”を使わないんですよね。ずっと“We”だったんです。“私たちはこうしよう”“私たちの可能性はこうじゃないか”というように聴衆に語りかけるんです。自分も含めた私たち全員で世界を変えていくっていうのが“I”と“We”の違いなんですね。ヒラリーさんはスピーチが始まって3語目くらいで“I”が来るんですよ。だけどオバマさんはスピーチが始まって5分以内には“I”が出てこないんです。
語りかけることの重要性とか、主体がどこにあるのか、ということをオバマさんはわかっていて、というよりはスピーチライターがわかっていたんでしょうね」

(第2回 党首討論「こういう風にやってほしい、というのを小説の中で表現できてスッキリした」 に続く)


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