高齢者不在騒動を予言した作家

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 戸籍上では生き続けている「超高齢者」が次々と確認されている。8月27日には、200歳の男性まで判明するなど、“長寿記録”がどこまで伸びるのかがネット上を中心に話題になっているようだ。

 この「高齢者不明騒動」だが、そもそもの発端は今年7月、東京都足立区の民家で、生きていれば111歳になる加藤宗現さんが白骨化して見つかった事件に遡る。その後も、生存確認が取れないまま生きていることになっていた老人たちのニュースが毎日のように報道されている。
 玄関を開け、部屋に入り、ミイラ化した死体が横たわっているのを発見する。この一連の流れに、“ある文学作品”を思い出す人が、もしかしたらいるかもしれない。

 ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』である。

 生ける伝説ともいえる世界的作家のこの長編小説の冒頭、市民たちは、『全都の市民は月曜日の朝、図体のばかでかい死びとと朽ちた栄華の腐れた臭いを運ぶ、生暖かい穏やかな風によって何百年にもわたる惰眠から』目覚める。そして、このとき「われわれ」は勇気をふるい起こして大統領府に押し入ったのだが、そこで目にしたものは、『床にうつ伏せになり、右腕を枕がわりに頭の下にあてがって』死んでいる大統領の姿だった。

 マルケスといえば“マジックリアリズム”と呼ばれる創作手法で知られている。
 “マジックリアリズム”とは、簡単に言えば、実際には存在しえないものや、起こり得ない出来事と、日常にある物事を混ぜ合わせる表現方法である。
 現実には起こり得ない出来事とはどんなものか?それは、

 それはひどく年取った男で、ぬかるみにうつぶせに倒れ、もがけばもがくほど大きな翼が邪魔になって、立ち上がることができずにいた。(大きな翼のある、ひどく年取った男)

といったことや

 彼が演説をしているあいだに、助手たちがひとつかみの紙の小鳥を宙に放つと、その折り紙の動物は生命を得て、木造の演壇の上を飛び回り、やがて海の方へと飛び去っていった。(愛の彼方の変わることなき死)

 といったことで、もちろん冒頭の、何百年ぶりに惰眠から目を覚まして、死んだ大統領を発見するくだりもそうである。

 要は、マルケスの小説は多分に法螺話の要素を含んでいるのであり、彼が法螺として書いた一節が何十年かの時を超えた日本で現実のものとなってしまった点に、何やら薄ら寒いものを感じるのは筆者だけだろうか。

 今回の騒動は海外でも報道されているようなので、現在はメキシコに暮らすマルケスの耳にも入っているかもしれない。
 地球のほとんど反対側で起こったこの騒動に、彼はどんな感想を持つだろうか?
 もちろん、彼は何も悪くないのだが。
(新刊JP編集部/山田洋介)


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