『おそろし』から2年、宮部みゆきの“百物語”続編が刊行

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 この読後感は一体なんと言えばいいのだろうか。明るく、ほっとする結末に、寂しさにも似た、やる瀬なさ。「こわくて、かわいい」、これが本作のキャッチコピーだが、私はそこにほんの少しのせつなさを付け加えたい。

 江戸は神田三島町で袋物屋を営む三島屋の行儀見習い・おちかが、人々の“変わり百物語”を聞くという、宮部みゆきさんの不思議な時代小説『おそろし』から2年。待望の続編である『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』が中央公論新社より出版された。
 本作は、行く先々で水が“逃げて”しまう丁稚(でっち)の少年・平太と、平太に取り付いた女の子“お旱さん”の少し哀しい物語を描く「逃げ水」、怖くて近寄れない幽霊屋敷に住みついた真っ黒な生き物“くろすけ”とある夫婦の交流が描かれる「暗獣」ほか全四話を収録している。

 この物語の中では、人に心があるように、神様や妖怪たちにも心がある。彼らも拗ねたりするし、気を遣ったりする。
 しかし、時に人は、自分以外のものにも心があることを忘れてしまう。“お旱さん”も“くろすけ”も、そうした人々の間で悲しんだり、苦しんだりするのだ。本作に出てくる登場人物―人間に限らず―全員が、そういった、生の感情を持っている。だからこそ、読者は「こわくて、かわいい」にとどまらない感想を抱くだろう。思わず微笑んで手を伸ばしたくなるような温かさや、胸を衝かれるような寂しさ。読み終えるのがもったいなくなるような、「世界」への愛着。

 なお、本作は紙での書籍のみならず、タブレット型端末「iPad」向けに電子アプリ化されている(有料)。「iPad」で読むことができるのは本作に収録されている「序 変わり百物語」と「第三話 暗獣」で、南伸坊さんの124枚の挿絵が物語と連動して動くのだ。まさに、遊び心たっぷりの電子版紙芝居、と言えるものではないだろうか。
 作者の宮部さんは「このアプリで〈くろすけ〉たちと遊んでいただき、「じゃ、どんな物語なのかな?」と気になったら、書店さんに足を運んで、単行本の『あんじゅう』を見てもらえると嬉しいです」とコメント。新刊JPニュースでは、この『あんじゅう』電子アプリ版に深くフォーカスしたレポートをお届けするので乞うご期待。

 ひとつだけ言えることがある。本でも電子でも、宮部ワールドは揺るがない。その世界そのものを、そしてキャラクターの持つ「心」を、じっくりと味わって欲しい物語だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)


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