出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』
 第19回は、今年6月に発売された『俺俺』(新潮社/刊)が大きな反響を呼んだ、作家の星野智幸さん。
 最終回の今回は星野さんの好きな小説について語ってもらいました。

■『近い将来、長大な作品を書きたい』

―星野さんご自身のことについてお聞きしたいのですが、小説を書き始めたきっかけがありましたら教えてください。

星野「文学に携わって生きていきたいと思って、勤めていた新聞社を辞めたのですが、どう携わるかというのは最初のうちはわからなかったんです。その後ラテンアメリカ文学を勉強するためにメキシコに留学したんですけど、帰ってきたらバブルがはじけていて仕事がないわけです。年齢的にも30近くになっていたので、研究者になるよりも、小説を書いてみる方向で背水の陣を敷いてやってみようと思ったんです。その時、背水の陣を敷こうと思ったということは、それが一番やりたかったからだと思うんですよね。」

― 当時からしたら一大決心ですよね。

星野「そうですね、でも小説を書き始めて新人賞に応募したりしている時に、字幕翻訳家の太田直子さんと知り合って、その仕事を少しできるようになったんです。だから稼ぎはそっちの方で賄いながら書いていこうと思っていました。ただ、それも三島賞の受賞が決まったあたりから執筆の仕事が増え始めて両立が厳しくなったから辞めたのですが。」

―普段の生活スタイルについてお聞きしたいのですが、執筆の時間は決まっていたりしますか?

星野「いやあ…本当は時間を決めてコンスタントにやったほうがいいと思うんですけど、集中して世界にのめり込むとガーッと書けるタイプなので、なかなかそうはなりにくいですね。書き始めると何日間もそればっかり時間もめちゃくちゃになってやってるし、何日かやるとヘトヘトになって数日書けなかったりということを繰り返してしまっています。でもそれやってると長生きできないそうなので…(笑)
長生きをしている作家の方たちは朝起きて3時間くらい書いて、それからご飯を食べて、みたいな生活をしている方が多いので、数年前からそういうスタイルに切り替えようと思ってはいるんですけど、最初のうちはできても段々崩れてしまうんですよね。継続が難しいです。」

―星野さんといったらラテンアメリカ文学に造詣が深いことで知られていますが、以前に他の媒体で『蜘蛛女のキス』をあげていらっしゃいましたよね。

星野「プイグはいいですね。ジェンダーを題材にしていますが、独特なオープンさがあるというか。あとプイグはメロドラマを得意としていましたが、決して紋切り型ではない優れた書き手だと思っています。僕にはない資質なので憧れますね。」

―ラテンアメリカの作家の方で、他に好きな方はいらっしゃいますか?

星野「ガルシア・マルケスは好きですし、あとはもう亡くなってしまいましたがレイナルド・アレナスもいいですね。あまり翻訳はされていないのですが。あとは、メキシコのフアン・ルルフォという作家がいまして、『ペドロ・パラモ』という作品が有名なんですけど、それはある種完璧な小説だと思いますね。」

―星野さんの人生に影響を与えた本を3冊挙げるとしたら、どの本を選びますか?

星野「色々ありますし、その時の気分でも変わるものですが、まずは『ドン・キホーテ』。それから中上健次の『千年の愉楽』。あとは安部公房の『人魚伝』かな。」

―安部公房の名前が出ましたが、今回の『俺俺』もある種、安部公房的なところがありますよね。

星野「そうですね、冒頭のオレオレ詐欺のところとか、いきなり見知らぬ人が入ってきて知り合いのように命令するところなんてまさにそうかもしれません。」

―最後になりますが、今後の作家としての目標がありましたら教えてください。

星野「近い将来に、今回の本の倍くらいあるような長大な作品を書きたいとは思っているんですけどね。それには気分をずっと持続させる体力が必要です。精神力も必要ですが、精神力とは結局体力なので。あとは構成力ですね。今回はそういう意味で、長編を連載で書きながらどこまで自分で構成できるか、というのを試していたのですが、何とかできたようなので、それはこれからもグレードアップしていきたいと思います。」

■取材後記
 ひとことひとこと丁寧に言葉を選びながら取材に答えてくれた姿が印象的だった。
 ラテンアメリカ文学を勉強するためにメキシコに留学されていただけに、中南米の作家、小説に関する知識の広さ、深さには驚くばかり。
 こういった文学的栄養が今後の作品にどう活かされていくのか、早くも次作が楽しみだ。
(取材・記事/山田洋介)

(第1回 自分で自分を殺しているような社会を目に見える形にしたかった を読む)
(第2回 『俺俺』外伝をツイッターで募集。その感想とは? を読む)



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