戦時下の日本は本当に悲惨だったのか

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 毎年この季節になると戦争を扱った雑誌やテレビ番組をよく見かける。しかし、これらのほとんどは“学徒出陣”や“原爆”“空襲”“神風特攻隊”など、戦争の最もセンセーショナルで悲惨な一面を切り取り、検証したり、振り返ったり、論じたりするものだ。
 これらはあくまでも戦争の一面にすぎない。

 第143回直木賞受賞作『小さいおうち』(文藝春秋/刊)は、戦争や戦時の東京が中産階級家庭に入っていた女中の視点で描かれている。その世界からは当時の山手や銀座の賑わいや華やかさこそ伝わってくるが、歴史の教科書に載っているような殺伐としたイメージはあまり感じ取れない。

 特に、若い人は、この本を読むと違和感を覚えるかもしれない。
 しかし、この違和感は著者が戦争を理解できていないということではもちろんなく、私たちの多くが持っている戦争のイメージが戦闘の最前線のそれだったり、空襲直後や終戦直後のそれだったりするために、語り手である主人公、つまり都市部に暮らす女性の戦争への意識と食い違ってしまうのである。

 本作の著者・中島京子さんは、執筆にあたって戦争当時の資料を読んだ時のエピソードとして「どうしてこんなにぼんやりとして楽しそうなの?」という印象を持ったと語っており、戦争が本当に深刻化していく昭和19年頃までは、東京は戦争一色ではなかったことがうかがえる。

 ミッドウェー海戦も戦争の一面なら、『小さいおうち』で描かれている世界もまたしかりである。
 戦闘に参加していなかった一般人の生活を知ることも、戦争を知ることの一部であるという意味で、本作は興味深い。
(新刊JP編集部/山田洋介)


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