つねに風を意識した攻撃を仕掛けていた楠原千秋。相棒の三木に、強風下でのレシーブのポジション取り、サーブのコースなど事細かに指示していた

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 14日の鵠沼海岸は海からの烈風にさらされていた。その強さは瞬く間に、浜には風紋ができるほど。カモメも頭を海に向け、風に逆らいつつピタッと止まったように空に浮かんでいる。

 その風を、選手はコートの真横から受けることになる。メインコートには海側にスタンドが設置されており風は和らぐが、その他のコートには遮る物は何もない。準決勝に進んだ尾崎睦(25)は「2つのコートではまったく違う。これだけ吹いているとどうなることかと思った」と話している。

 風は、砂浜で行われるビーチバレーを構成する要素のひとつ。また観戦する側にも面白みのひとつである。今大会チームとして5連覇、個人としては9連覇を狙う白鳥勝浩(33)は先日「風が吹くと技量が試される。いつも風を吹け、もっと吹けと思っている」と話していた。

 風の中のプレイは、やはり経験がモノを言う。女子では現役唯一のオリンピアン、第一線は退いたが、いまだプレイし続ける楠原千秋(34)は話す。「頭でわかっていても、身体は動かない。経験を重ねないと難しい」横からの風についても「前後の風よりいい。後ろからの風はノーチャンスのこともあるが、横風はやりようがいくらでもあるから」と話した。

 その経験豊富な楠原と同じくアマチュアの三木庸子(33)のペアが、JBVツアーでは優勝、準優勝、3位と安定感のある浦田聖子(29)西堀健実(28)組と対戦。午後に入り最も風の強い時間帯、スタンドのない、吹きっさらしのコートで行われた。

 楠原は試合前のコイントスに勝つと、迷うことなく一方のコートを選択した。風は真横から。ビーチバレーは頻繁にコートチェンジを行うことも考えると、どちらのコートも大差はない気がするが、楠原は「三木の得意なレフト側が風下になるコートを選んだ」と解説してくれた。つまり、横風であっても風下からクロス(斜め)に風上へ打つスパイクが有利であるということだ。三木も「全然違います。楠原さんには思いっきり行けと言われていた」と話す。

 第1セットの序盤、浦田・西堀組の連続ポイントもあり、2-5とリードされコートチェンジ。すると楠原は、また風上側で構えた。三木と左右のポジションを変えたのだ。常に三木が有利な風下側からプレイできるように。さらに、相手のサーブは風に流されるのを嫌い、どうしても風上側に打たざるを得ない。するとボールは楠原に集まり、風上側からでも彼女の攻撃力を生かすチャンスが生まれると考えたのだ。

 「国内では見かけないが、海外では当たり前」と楠原が話すその戦略が徐々にはまり始める。10-10に追いつくと、楠原はスカイサーブ(天井サーブ)も繰り出し、相手のミスも誘う。終盤まで競っていたが、最後は浦田・西堀組の連続ミス。21-19で第1セットを奪う。

 第2セットも、浦田・西堀組は風と、楠原の戦略に翻弄されリードを許してしまう。どうすることもできないまま、セットを落とし破れた。

 試合後、楠原は「実力的には向こうの方が上。安定感のあるペアに勝ったのは、やはり経験だと思う。男子を見てもわかるが強風下では経験のあるチームが勝っている」と話した。負けた浦田は「風の中でのプレイができなかった。自滅です」と話すが、楠原の戦略にのせられてしまった部分は大きい。また、楠原・三木は、終盤、浦田にミスの目立つと即座にボールを集中させた。経験に裏打ちされた戦略だけでなく、柔軟に対応する戦術。

 「明日も風が吹くかわからないし、メインコートなので影響は少ないと思う。また違うでしょう」と楠原は言うが、この試合のように経験をまざまざと見せつけられると、勝つ可能性は大いにあると感じる。ビーチバレーの醍醐味、選手の技量を試す風、吹いて欲しいと願いたくなる。

(取材・文=小崎仁久、写真=胡多巻)

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