七月二十六日に京極夏彦〈巷説百物語〉シリーズの第五作『西巷説百物語』(角川書店)が発売された。〈巷説百物語〉は〈憑き物落し〉の京極堂こと中禅寺秋彦が登場する〈百鬼夜行〉シリーズと並ぶ作者の看板シリーズで、第三作の『後巷説百物語』で京極は第百三十回直木賞を受賞した。江戸時代後期の出来事を描く時代小説だが、テレビアニメ化などの映像化の機会にも恵まれており、広範な層の読者から支持を受けている。「この世には不思議なことなど何一つない」と断言して世の怪事の真相を明らかにするのが京極堂だが、〈巷説百物語〉シリーズの中心人物・御行の又市は「妖怪」の不思議を用いて悪人をたぶらかす裏稼業の男として設定されており、京極堂とは正反対の考え方をする人物であった。
 今回の『西巷説百物語』の特色は、江戸時代に経済の中心地であった大坂を主舞台にしていることで、御行の又市に代わって靄船の林蔵なる人物が主役を務める。林蔵は貴族のご落胤という噂もある怪人物で、又市同様怪しい言説をもって人をたぶらかすのである。又市をはじめ、〈巷説百物語〉のキャラクターたちも、脇役ながら出番を与えられている。
 七月二十四日には同書の発売を記念して、東京・新宿の角川シネマ新宿でイベントが開催され、満員御礼となる三百人超が会場へと詰めかけた。イベントは、作者自身による「帷子辻」(『巷説百物語』収録)の朗読で始まり、アニメや実写ドラマの上映会と併せてトークイベントも行われた。御行の又市から靄船の林蔵に主役交替した理由について京極が「又市が地方出身者なので京阪の都市文化に合わないだろうと考えた」ことを明かすなど、創作秘話が満載で、会場のファンからは驚きの声が絶えなかった。
〈巷説百物語〉は竹原春泉作の『絵本百物語』に登場する妖怪を毎回モチーフとして使用する連作だが、春泉が描いた妖怪は四十四であり、十数匹(?)がまず手付かずで残されている。これについても京極は作品化の予定があると明言している。『西』に続く〈巷説〉の展開がどうなるのか、ファンとしては気になるところだ。

(杉江松恋)







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