ゴルゴ13・さいとう氏の素顔(1)

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 『ゴルゴ13』『鬼平犯科帳』『サバイバル』などのヒット作で知られるさいとう・たかを氏の自伝『俺の後ろに立つな―さいとう・たかを劇画一代』(新潮社/刊)が出版されたのは先月のこと。本書にはさいとう氏の生い立ちから、創作論、人生論にいたるまで多岐にわたって綴られており充実の内容だ。
 漫画業界に入って55年間、仕事に穴を空けたことがないというさいとう氏だが、一度くらい休載のピンチはなかったのだろうか?
 “劇画の父”の素顔に迫るインタビュー、第1回!

◇ ◇ ◇

■『ゴルゴ13』休載のピンチは何度もあった?
―まず、本作『俺の後ろに立つな』に関してですけども、劇画とは違った生の意見を知ることができる本を出すというのは、さいとう先生としても珍しいことかと思いますが、実際に書いてみてどう思われましたか?

さいとう「なんだか恥ずかしいですね。私が死んでからならみんな好きに書いてくれたらいいと思いますけど、自分で自分の意見を世間に示すというのはちょっと抵抗がありますね。『さいとう・たかをのコーヒーブレイク』という本を昔出したんですけど、こういう自伝的な本はその時が初めてでした。あれがなかったら今回の本も思案してしまったかもしれませんね」

―本作を執筆する際、これまでの劇画人生ですとか、人生そのものを振り返ったかと思いますが、その時にどのような感想をお持ちになりましたか?

さいとう「なんだかもうすぐ死ぬみたなことを言いますね(笑)一番に思うのは本当によかったな、ということです。子供の頃、親も兄弟もよってたかって私のことをバカだの何だのと言ったものです。そんな風に言われるものだから、俺のバカさ加減はどの程度のものなのかと真剣に悩みましてね。社会人になってちゃんと生きていけるのかと不安でしたが何とかやってこれました。やってこれたどころかこんなに恵まれた仕事に就いて、恵まれた状態になって、本当に出来過ぎの人生だなとつくづく思いますね」

―これだけ劇画のお仕事を長く続けていらっしゃると、どうにもやる気が起こらないということがあったりはしませんか?

さいとう「そんな図々しいこと考えたこともありません。お百姓さんは天候に苛められても一生懸命作物を作っているでしょう。あの感覚ですよ、私は」

―さいとう先生は劇画のお仕事を始めて55年間、一度も穴を空けたことがない(休載なし)ということですけども、ここまで休まずに続けてこられた要因はどんなところにあると思われますか?

さいとう「実にくだらない理由なんですけど、私がこの仕事を始めて間もない頃は、仕事を遅らせたり、穴をあけたり、逃げたりするのが売れっ子作家のステータスみたいな時代だったんですよ。当時の私はそれをとんでもない勘違いだと思っていました。他の仕事だったら約束を破れば違約金を取られるじゃないですか。それをまるで自慢のごとく言うのはとんでもないことだというのを若い時に編集者に向かってほざいたことがありまして、そんなことを言ったおかげで私は休めなくなってしまいました(笑)」

―なるほど、とはいえこれまでには休載のピンチもあったのではないですか?

さいとう「そりゃあもう何べんもありましたよ。スタッフがどっと辞めたり、病気で入院して、今度はダメかなと思ったこともありましたし。最近も私の右腕左腕のスタッフが倒れましてもう大変でした。私はここ(さいとうプロ)で寝袋で寝ながら仕事をしたんですよ。今回こそダメかなと思いましたが何とかなりました。
後日担当編集者に“怒らんから正直に言え、今度は落ちたと思ったろう?”と聞いたら、“先生はやるって言ってましたからやると思ってました”ってシレッと言われてね(笑)」

―今、気になる漫画家の方はいらっしゃいますか?

さいとう「私は人のことがあまり気にならないんですよね。よくライバルをモチベーションにしてがんばっている人がいますけども、私はそういう意識がないんです。
でも浦沢直樹さんが編集者の長崎君(尚志・漫画編集者)と組んでやってるんですよ。私は自分の担当編集者に“編集者はマネージャーでなくプロデューサーでなければならない”ということをいつも言ってきましたが、長崎君だけが私の言ったことを実行に移してくれた。だからあのコンビは気になりますね」

―さいとう先生の代表作ともいえる『ゴルゴ13』についてお聞きしたいのですが、本書の中でゴルゴは悪のヒーローではないと書いていらっしゃいましたが、その意図を教えていただけますか?

さいとう「悪のヒーローかどうかというところでは絶対悪ですよ。ただ、善とか悪は本来ないものだと思っています。都合がよかったら善といい、悪かったら悪と呼んで社会体制が生まれてきたわけです。六法全書を見ても「人を殺してはいけない」とは書いてありません。「人を殺したらこんな目に遭わせますよ」と書いているのであって、つまり善とか悪は約束事なんですね。その約束についていけず、はみ出してしまった人間がどうするかといったら、自分の中に善と悪の基準を持たなくてはいけない。ゴルゴ13の場合も、善と悪の基準は自分の中にあり、他者の善悪の観念とは関係がないんです」

―なるほど。ゴルゴが現実世界にいたらどうなると思われますか?

さいとう「一週間と生きていられないでしょうね。すぐに抹殺されてしまうと思います。そういう意味で“はみ出してしまった”人間が生きていくにはどうすればいいか、というのも『ゴルゴ13』のテーマなんです。どうすればいいのかというと、考えられないほどの我慢と考えられないほどの用心深さが要求されますね」

(第2回 「分業制を始めた当初は誰も相手にしてくれなかった」を読む)

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