世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらう。

 7月のテーマは『仕事もプライベートも充実!コミュニケーション能力に磨きがかかる3冊』。
 今回登場するのは紀伊國屋書店新宿本店 ピクウィック・クラブの皆さん。どんな3冊を選んだのか?


◆『審判―カフカ・コレクション』

著者:フランツ・カフカ/翻訳:池内紀
出版社:白水社
定価(税込み):1260円

 円滑なコミュニケーションを阻害するものとは何か? それは人間や社会に関する種々の幻想である。いわく、「言葉は通じるはず」「人はみんなマトモなはず」「みんな同じようなことを考えているはず」などなど……これらは飽くまでも幸運に恵まれた場合のみ通用する牧歌的な思い込みにすぎず、このような無邪気な幻想に基づいて行われる対話こそが様々な行き違いや衝突を生んでしまうのだ。そこでカフカである。たとえば「審判」で書かれるような、いわれのない罪による逮捕、何を考えているのか皆目わからない人々、複雑怪奇なお役所の建物とシステム、尋ねても尋ねても返って来ない答え、突然起こる無意味な事件、などなどの悪夢的な状況は、なんのことはない、ただの現実である。人は「審判」を読むことによって、人と人との関係、そしてその延長としての社会、というものの根本的な「わからなさ」を思い知るであろう。そうなればしめたものだ。もはやあなたの目の前にいる、例えば同僚が、自分と同じものの見方をして同じ言葉をしゃべるなどとは到底信じられなくなっているはずだ。したがってあなたは注意深く彼の不確定な言葉を聞き、その信じがたい要求をあるがままに受け入れ、その虚ろな表情に対して自分にできる精一杯の答えを返すだろう。もうそれしかないのだから。その覚悟さえできてしまえば、もうコミュニケーションなど何も怖くはないだろう。それに、最悪の事態はもう本の中で経験済みだ。


◆『アメリカにいる、きみ』

著者:C・N・アディーチェ/翻訳:くぼたのぞみ
出版社:河出書房新社
定価(税込み):1890円

 新入社員が会社に入って求められるスキルの中で一番重要視されるものが「コミュニケーション力」であるという記事を最近新聞で読んだ。こんな事がわざわざ記事になるくらい最近の若い人達はコミュニケーション力が乏しいように見られているらしい。だが、そうは言ってもそんなに簡単にコミュニケーション力を上げる事なんて出来るわけはない。もちろん会話が上手になりたい、とか相手とうまく付き合えるようになりたい、というレベルでコミュニケーションを捉えている人は巷に溢れる「会話が上手になる本」の類を読んで、その気になってくれればいい。しかし、そのようなマニュアル本を読んで、いくら周囲の人との会話が弾むようになったとしてもそれがコミュニケーションと言えるのだろうか?対象の相手が自分の全く分からない言語を常用する人になったとしたら、身につけたコミュニケーション力が通用するのだろうか?そもそもコミュニケーションというのは言語間だけの問題なのだろうか?
 『アメリカにいる、きみ』はナイジェリア出身の女性作家が書く短編集だ。表題作はナイジェリアからアメリカに渡った女が経験する出会いと別れが描かれる。主人公のナイジェリア出身の女は言葉の違いや肌の色など表面的な違いはもちろん、生まれ育った環境や文化に基づく考え方やちょっとした行動にアメリカで生活している人間との大きな差異を感じる。しかしそれでも生き抜く為に、出会う人々や唯一自分の事を理解してくれそうな男とコミュニケーションを深めようとするが、なかなか上手くいかない。この短い作品を読めば分かるように、いくら言葉を覚え、相手の慣習を真似することぐらいは出来たとしても、自分の根源に流れている血の色まで変えることは容易ではない。コミュニケーションという言葉は易くとも本当に相手と同じ目線で話し、生きるというのは一朝一夕で出来るようなものではないのだ。「相手の話には相槌を打ちましょう」では通用しない。
 しかしそれでも、少しでも相手の事を理解しようと努める事は無駄な事ではない。それは作品を読み通した後に気づく。


◆『ハルーンとお話しの海』

著者:サルマン・ラシュディ
出版社:国書刊行会
定価(税込み):1890円

 コミュニケーションで大切なのは、自分の想いを伝えるということ。
 だけど、それはなかなか難しい。
 この物語の主人公の父、ラシード・カーリファもそんな1人。かつては王国一のストーリーテラーだったけど、ある日、ラシードは物語る力を失ってしまう。父の力を取り戻すためにハルーンは物語の国へと旅立つが、そこもまた問題が起こっていた。
 「ほんとうでもないお話がなんの役にたつ?」
 だけど、ほら話だって、冗談だって、僕たちは話すことで感情が生まれる。
 著者、ラシュディは『悪魔の詩』のために潜伏生活を余儀なくされている。伝えたいことが伝えられない中で書かれたこの本は物語ることがいかに大切か教えてくれる。沈黙に打ち勝つためには物語らないといけない。
 読者も、また著者も物語がどこかに連れていってくれることを望んでいる。


◇   ◇   ◇

【今回の書店】
紀伊國屋書店 新宿本店


住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

■ウェブサイト
http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm

■紀伊國屋書店ピクウィック・クラブ ブログ
http://booklog.kinokuniya.co.jp/pickwick/

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