日本の戦い方に関しては「じつは残念だった」と柱谷氏

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  約1ヶ月間にわたるW杯の熱い戦いも、スペインの初優勝という結果で幕を閉じた。決勝戦を終えた今、柱谷哲二さんに改めてW杯全体のこと、そして今大会の日本での戦いぶりについてうかがった。

――今大会はスペインの優勝という結果に終わりましたが、決勝戦の感想をお聞かせいただけますか。

 スペインが優勝っていうのは、実は僕の裏予想だった。本命はやっぱりブラジル。スペインは素晴らしいチームだけど勝負強さに若干疑問があったからね(笑)。でも、決勝自体はオランダも激しく戦って、互角のゲームを展開していたと思う。ただ交代選手の層の厚さ、質の高さというところでスペインが優勝という結果につながったのかな、と。

 それと、いろいろ言われてはいるけれど僕はレフェリーがすばらしかったと思う。90分の中でよく退場者を出さなかった。実際は、退場者が2〜3人出てもおかしくない展開だったと思うけれど(笑)。確かにフェアプレーは大事。選手たちだって、本当はそんなプレーをしちゃいけないってことはわかってる。これはもう大前提。ただW杯の決勝というプライドを賭けた戦いの中では、やっぱり熱くなってやっちゃう部分はあるんだよね。その中に、自分たちのサッカーを貫き通すぞっていう強い意思が見えた。

 それに、もしかしたらら誤解を招く言い方かもしれないけど、90分の中でふたり3人と退場者が出るW杯の決勝戦なんて、きっと誰も見たくないと思う。そういう意味でも、あの決勝戦を見ごたえのある試合にしてくれたのはレフェリーだと思う。もちろんフェアプレー精神は大切だけど、その中で改めてサッカーは格闘技なんだ、ということを痛感した。

――では、柱谷さんが事前に優勝と予測していたブラジルの敗因はどこにあったのでしょう。

 ちょっと組織が強すぎてつまらなかったかな。ロビーニョもカカも、アタッキングサード(フィールドを三分割したときの、相手ゴール側のもっとも攻撃的なゾーン)に入ったときに、もうちょっとできたんじゃないのかと。守備に追われるシーンが多くて、本来のブラジルが持っているいちばんの良さが消えていたね。僕は、ブラジルは持ち味である自由奔放なラテンのサッカーをベースにして、残り半分を組織力で組み合わせれば最高に強いチームになると期待していたのだけど、結果的には7割くらいが組織になってしまっていた。だからブラジルは確かに強いけれど、どこか一本調子で。組織を重んじるあまり、ブラジルらしからぬ真面目なサッカーになっちゃった(笑)。でも、もし準々決勝でオランダに勝っていたら勢いに乗っていたかもしれない。それがW杯というものだからね。

――ほかに印象に残ったチームは?

 チリがおもしろかったですね。攻撃的なところがすごく出ていたし「え、そこで前に出て行っちゃうんだ!」みたいな意外性があって。やっぱり攻撃的なチームがおもしろかったかな。今回は南半球の大会で季節的には冬だから、涼しくて気温が低い。高地順化さえできていれば動きやすかったんだと思う。だから最終的には、攻守にわたって行く、戻るという動きがしっかりできていたチームが上位に行った。逆にコンディションの悪いチームは、順当に1次リーグで敗退していたね。

――W杯全体を振り返った中で、日本のサッカーをどのように評価されますか。

 難しいね。俺の中でも、けっこう評価が右に行ったり左に行ったりしているんだよ(笑)。結果に関しては、本当に素晴らしい結果だったと思う。結果にケチはつけない。国中がサッカーを見てくれて、日本にサッカー熱が戻ってきた。それはベスト16という結果があるからこそ。この結果をもとに、これから日本のサッカーやJリーグは盛り上がっていける。また子どもたちにも、サッカーに憧れる気持ちが生まれたと思うし。これはすごく大切なことだよ。そういう意味では、岡田さんは日本サッカー界がいちばん求めていることをやってのけたといえる。

 でも内容がね。僕は日本代表のサポーターでもあるけれど、現場で指導にあたっている人間だから、これが本当に日本が目指していくサッカーなのか、と思うことはあった。このサッカーをベースにするならば、日本は今後カウンターサッカーを目指していくことになる。僕はよく、負けたときの「たられば」ではなく勝ったときの「たられば」を考えるのだけど、もし初戦のカメルーン戦で先制点を取られていたらどうなっていただろう、と思う。

 もちろん守備は素晴らしかった。でも攻めについてはどうか。攻めるということはリスクを負うしことだし、ある程度人もかけなければならない。たとえばアジアのライバルである韓国はどうだったか。僕は韓国は嫌いじゃないけど、やっぱり負けたくはない(笑)。で、韓国も日本も同じベスト16という結果ながら、韓国は攻める形を見せての敗退でしょう。1回戦の対戦相手であるパラグアイも、守ってはいるけれど、リスクを背負って前に上がっていくシーンがあった。メキシコもそう。日本と同じような体格の選手が多いチームがあそこまでやれるのなら、日本ももうちょっとやれたんじゃないかという歯がゆさは感じました。

 何より僕は、岡田さんの1年前までやっていたサッカーを、W杯で見られなかったのが残念でならない。3人、4人と絡んで、連動して前に出て行くという岡田さんのサッカーが、自分のやりたい、イメージしているサッカーと似ているから余計にね。

――では4年後のブラジル大会に向けて、日本代表はどのようなサッカーを目指すべきだと思いますか?

 僕としては岡田さん続投でやってもらいたい。岡田さんって、2回とも途中からピンチヒッターという形で監督になっているでしょう。だから実は一度も、最初から代表に携わったことがないんだよね。ならば今度はちゃんと、「4年かけてチームを作った」岡田さんのサッカーを見てみたい。今回だってわずか1週間で、守るというテーマであれだけのことをしてみせた監督ですよ。あんなに素晴らしい監督は日本にそういないし、外国人監督にだって引けを取らないと僕は思う。

 今回、ベスト4という目標を掲げてそれができなかったのなら、責任を取ってもう一度チャレンジしてほしい。自分から逃げないでほしい。そして今度は守るだけではなくもうちょっと前、決勝戦のスペインとオランダのようにハーフウェーラインを挟んだ戦いで、ベスト8、ベスト4を目指していってほしいな、と思う。これからは日本の選手もどんどんどん海外に出ていくから、ますます選考が難しくなっていく。だからこそ僕は継続性がすごく大事だと思う。次のブラジルW杯も冬の大会だから、やはり走れるということが前提で、これは日本にとってすごく有利なことだよね。だからこそ、僕は岡田さんに続けてほしい。僕は岡田さんのチームの“先”を見たい。少なくとも、予選でまたややこしくなったら「じゃあ岡田さんで!」っていうのだけはやめてほしいね(笑)。


 南アフリカ大会は終わったが、W杯への戦いはまだまだ続く。Jリーグも18年目に突入し、そろそろ「日本のサッカーとはいったい何なのか」を突きつけられる時期になっているのかもしれない。柱谷氏の南アフリカ大会総括は、そんな日本代表の「ベース」となりうる部分と「今後チャレンジしなければならないこと」を明確にしたのではないだろうか。

インタビュー・文/ 飯嶋玲子

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■柱谷 哲二 プロフィール
はしらたに てつじ、1964年7月15日 生まれ。
京都市出身、サッカー指導者・解説者。Jリーグ選手協会初代会長。
現役時代、ポジションはDF、守備的MF。現JリーグOB会(J-OB)代表理事。