オランダのスタメンは、ステケレンブルグ、ファンデルヴィール、ハイティンハ、マタイセン、ジオ、ファンボメル、デヨング、カイト、ロッベン、スナイデル、ファンペルシー。スタメンはがっちりと固定しているオランダ。1〜11番までがスタメンに名を連ねているので、大会中にスタメンが変わるような出来事がなくここまで至る。累積とかは除いて。そういう意味では、順調なのかもしれない。

 スペインのスタメンは、カシージャス、カプテビラ、プジョル、ピケ、セルヒオ・ラモス、シャビ・アロンソ、ブスケツ、シャビ、イニエスタ、ペドロ、ビジャ。ドイツ戦と同じスタメン。前線をバルサで固めることで、阿吽の呼吸を期待しているのだろう。バイタルをペドロとイニエスタで攻略できるかどうか。大会前は優勝候補→試合が始まると、こりゃ駄目だ→なんだかんだ決勝へきたスペイン。

 ■GKを使ったボール運び

 スペインのシステムは4-2-3-1。アロンソとシャビの位置が上下し、イニエスタとペドロが中央に進出してくるのが特徴。基本的に、ドイツ戦とそんなに変わらない。右サイドはセルヒオ・ラモスが駆け上がり、カプテビラは後方からスペインのボール運びを支援していた。いわゆる、いつもどおりである。決勝戦だからとか、オランダだからとか、そういう対策は特に無い。ドイツ戦での結果がスペインに自信をもたらしたのかもしれない。

 オランダのシステムは4-2-3-1。オランダの中盤は相手の位置にあわせて、システムを変更しまくっていた。現象で多かったのが、ファンボメルが前に飛び出して4-1-4-1になったり、スナイデルが高い位置からプレスをかけて、4-4-2になったりした。スペースを埋めるわってよりは、相手を捕まえる意識の高いオランダであった。なので、しっかりと守れそうな印象。ドイツよりはできそうな雰囲気。

 序盤はスペインのペースで試合が進んでいった。得意のポゼッションで相手を自陣に押し込んで、攻撃を展開する。オランダはハーフライン位置からプレスをかける道を選択。DFラインを高めに設定することで、裏のスペースよりもバイタル潰しを優先させた様子。なので、ビジャを相手の裏へ走らせまくるスペイン。ビジャの飛び出しはほとんどオフサイドになったが、続けていけばチャンスになりそうなスペイン。

 それでも、オランダはDFラインを下げることなく、スペインの攻撃を食い止めまくる。セットプレーから危ない場面を作られたり、セルヒオ・ラモスの特攻に得点を決められそうになったりしたが、何とか最初の15分を凌ぐと、徐々にオランダが盛り返していく。スペインの攻撃に慣れてきたことが大きい。一番大きいのは、ビルドアップをなかば放棄したことにある。そんなスペイン対策を少し。

 引きこもって守備を固め、ボールの回復点が後方になる。後方から攻撃を開始するが、スペインの素早い攻守の切り替えにボールを奪われて、延々とスペインのターンで試合が展開していく。ドイツはそんな展開に抗うことができなかった。

 なので、オランダは考える。ドイツみたいに攻撃を進めていったら二の舞になる可能性が高い。地上が駄目なら空中戦だとロングボール作戦でボールを運ぶことに決めるオランダ。そうは言っても、ロングボールを蹴らせないような前プレを、スペインが仕掛けてくる可能性が高い。精度の低いロングボールではあまりに効果が薄くなりそうなオランダ。なので、オランダは3バックで数的優位を作ろう作戦に出る。

 ハイティンハとマタイセンが横幅を使い、中央に入ってくるのがファンボメルでも、デヨングでもない。正体はステケレンブルグ。オランダはDFラインを徹底的に下げて、相手を引きつける作戦に出る。3バックがCBとGKで構成されているので、困ったのはビジャ。全員が自分担当である。でも、3人もいる。これじゃ、相手の攻撃を止めることはできないわってことで、ビジャが無効化されてしまった。

 なので、イニエスタとペドロがビジャのフォローのために、自分のマークを捨ててオランダの3バックに襲いかかる。そうなれば、ペドロたちが担当するSBのマークが空くよねってことで、オランダはそのギャップを利用して地上戦を挑む場面もあった。スペインはこのあたりのマークがルーズになっていて、全体がちょっと間延びする形になっていた。なので、チャンスなオランダ。でも、基本は空中戦。

3バックでロングボールをフリーで蹴られる状況を作ると、がんがん前線に蹴っていた。そのボールの精度は決して高くないのだけど、オランダの計算はこんな感じだろう。ボールが通れば、ラッキー。相手に奪われても、高い位置からのプレスでボールを奪えばいいみたいな。この前プレ回避策によって、スペインは高い位置でボールを奪う場面が少なくなってしまった。また、オランダがプジョルにボールを持たせるような守備をしてきたので、スペインは攻撃が詰まる場面がちょこちょこ。

 オランダが試合をコントロール仕掛けたときに、動き始めるのがシャビ。DFラインを助けられないダブルボランチを尻目に、低い位置から攻撃を組み立て始める。35分すぎから、オランダにも疲れが見え始める。全体をコンパクトに保ち続けるのだけど、上下動が激しいので、隙が生まれる瞬間。その瞬間を見逃さないバルサ軍団。ペドロやイニエスタがバイタルでボールを受けて、少人数で攻撃を仕掛けていく。この攻撃がスペインに落ち着きを取り戻して、流れをオランダにつかませない。オランダもセットプレーで工夫を見せるがマタイセンが空振り。ロッベンのシュートはカシージャスが冷静に防いで、前半は終了した。

 スペインはもっと攻撃に枚数をさかないと苦しそうである。でも、守備が不安なので、リスクを冒すのはもうちょっと未来か。ボールを保持しているときに、ボールよりも後方に選手が多いのが悲しいところで。この現象を解決するために、アラゴネスはボランチを削れ、と言っているのだろうな。オランダは我慢しながらチャンスを掴みたいところ。いつもは守備をサボる選手たちが頑張っているのがさすが決勝戦って感じ。全体のコンパクトを保ち続けたいところ。

 ■イニエスタとシャビ

 後半の序盤はオランダが優勢に試合を進める。恐らく、3バックに手応えを感じたのだろう。シャビやイニエスタたちが深追いしてくれるので、ギャップを見つけやすいことを完全に認識したオランダ。前半に比べると、確実な地上戦を選択することが格段に増えていく。そして、それで、ボールを前線に届けられる場面が増えた。よって、オランダは自ら仕掛ける形が増えていく。ファンペルシーがポストプレーでチームを引っ張っている。

 ただし、そうなればスペインにカウンターのチャンスを与えることにもなる。なので、試合はゆっくりとオープンなものに変化していく雰囲気。カウンターでビジャがハイティンハに吹っ飛ばされた場面がまさにそんなイメージ。ただし、スペインは攻撃に人数をかけない慎重な姿勢を崩さないので、攻守が分断されているようなイメージ。前半はオランダの激しい守備に攻守が分断されたけれども、後半は自らそうしているような。ただし、ピケだけはこの状況をどうしにかしようと、攻撃参加していた。

 なので、オランダがスペインのゴール前に迫る場面が多くなった後半の序盤。ハイライトはブスケツがスナイデルに競り負けて、ロッベンが独走した場面だろう。しかし、決勝戦がロッベンを緊張させたか。ギリギリまで動かなかったカシージャスがファインセーブでチームを救う。呆然のロッベン。ああいう場面でGKをかわしたり、ループを打てたりすれば、伝説になれたロッベン。

 カウンターができそうなスペインは破壊力を増すために、ペドロ→ヘスス・ナバスという采配。独力でいろいろできそうな選手を入れることで、スペインはカウンターやらサイドからの仕掛けを重視する狙いのようで。そして、イニエスタが左サイドから中央を自由に動き回るようになる。関係ないけれど、ジダンとプレーエリアがかぶっているね。

 イニエスタが左から中央に固定されたことで、シャビとイニエスタが本領を発揮し始める。アロンソとブスケツはどこへ消えた。オランダはロングボールの先に味方を大量に動員しているので、スペインはロングボールに逃げる→相手にボールを奪われる悪い循環だったけれど、バルサコンビが徐々に試合の流れを強引に引き寄せ始める。そして、ヘスス・ナバスにボールを届けて、ビジャの決定機を演出する。

 そんな流れを引き寄せるために、70分にエリアを投入するオランダ。オランダの攻撃は殆どが左サイドからなので、両サイドから仕掛けたかったのかもしれない。また、エリアが攻撃しまくることで、セルヒオ・ラモスとヘスス・ナバスを牽制したかったのかもしれない。いわゆる危険な賭けである。

 その危険な賭けが成功しそうな雰囲気はまるで感じられなかった。攻撃参加するセルヒオ・ラモスに引っ張られるエリアはカイトに比べれば守備がうまくない。そしてカイトみたいにボール運びを助けられるわけでもないので、交代は失敗の可能性が高い。そして、ファウルされまくったイニエスタが目覚め始める。ファンボメルにぶつかったけど、なぜか審判にスルーされたイニエスタ。ここから怒涛のドリブルでオランダのゴールに迫っていく。ファウルで止めるしかないオランダ。

 また、押し込まれ始めたオランダだが、カウンターからチャンスを掴む。クリアーボールをペルシーが絶妙なヘディングで相手の裏にボールを送ると、ロッベンが快速でぶっちぎる。プジョルはファウル覚悟で止めに行くが、物ともしないロッベン。最後はカシージャスに防がれて、審判に怒るロッベン。倒れとけば、間違いなくファウルをもらえたと思うのだが。イニエスタみたいに。

 中央のイニエスタ、シャビをサポートするために、スペインはシャビ・アロンソ→セスク。セスクが中盤で存在感を発揮し、スペインはらしいボール保持をできるようになる。ただし、終了間際ってことで、オランダの足が止まり始めたのも見逃せない。スペインはちょっと有り得ないような攻撃のチャレンジをして失敗する場面があって、オランダはカウンターのチャンスがあったのだけど、ロッベンにボールを集めすぎている印象。ロッベンはボールに追いつく体力がなかった。そして、後半が終了。

 延長戦にオランダに体力はほとんど残されていなかった。ロッベンはほぼ沈黙。こんなときでも動けそうなカイトさんはベンチ。途中から出場しているエリアは延長の後半まで姿を表さなかった。それに反して、セスクを投入したスペインはらしいプレーで試合を支配していく。がっつりと守りたいオランダが、バイタルを攻略される場面が目立ち始める。オランダの前線のフィルターが機能しなかったり、セスクが相手を引きつけたり、ブスケツが最終ラインに入って相手を引きつけたりと多種多様。

 なので、スペインがオランダゴールに迫っていく。それでも、ジオの意地やステケレンブルグのファインセーブで何とかしのいでいく。しかし、されされた状況で守るのはきついわけで。ハイティンハはイニエスタのドリブルによって、ピッチから追い出されてしまう。それでも、ここまで退場を出さなかったウェブは頑張ったと思う。

 しかし、力が尽きたのは延長の後半。相手にあたって外れたFKをGKと判定されたオランダ。しかし、そのGKを奪い返して、エリアが仕掛けるのだけど、カウンターをくらう。ヘスス・ナバスがドリブルでボールを運んで、トーレスがクロス→こぼれ球を拾ったセスクがイニエスタにラストパス。そしてボレーが炸裂した。ようやく迎えた歓喜の瞬間。

 そして、残り時間にパワープレーを仕掛けるオランダだが、やっぱりオランダに残された体力はゼロであった。そしてイニエスタがテレビに映った瞬間に終了の笛がなりましたとさ・こうして、スペインが初めての優勝で南アフリカでの祭りはフィナーレを迎える。

 ■独り言

 GKを含めると、3-4-4気味でボールを運ぶことを考えたオランダ。ロングボールで前プレってのはブンデスで見た戦術である。スペイン対策をきっちり考えて、ブスケツからチャンスも作ったのだけど、ロッベンが外しちゃうのだからやるせない。いわゆるスペイン対策としては、しっかり戦った印象。ただ、スーパーサブがエリアしかいなかったのがきつい。

 そしてこういうサッカーで勝てなかった反動が怖いオランダ。次のEUROでどんな形で登場するのかがまったく読めない。ブラジルは反動がくるんだろうな。世界のレアル化である。

 スペインはセスクを入れて、クワトロ風味になってから一気にらしさを取り戻した印象。最初からそうする勇気がないのか、そういう形が嫌いなのかは最後まで謎だったデルボスケ。ただ、イニエスタがハルケ、セルヒオ・ラモスがプエルタへのメッセージを送ったように、スペインは背負っているものが大きかったのかなと感じさせられた。リーガを見ている人からすれば、感動する瞬間であった。

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