[インタビュー] デザイナー宮下貴裕が語る ″ソロイスト″

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 1996年に「Number(N)ine(ナンバーナイン)」を立ち上げ、2004-05年秋冬シーズンにはパリ・メンズコレクションにデビュー。常に東京のメンズファッションを牽引し続け、脚光を浴びてきたデザイナー宮下貴裕氏。しかし2009年冬、突然ブランドを解散し、「Number(N)ine」に終止符を打った。

 そんな宮下氏が、1年以上におよぶ沈黙を破り「TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.」として再始動。2010年7月5日にファーストコレクションを展示会形式で発表した。新たな一歩を踏み出した宮下氏に、新ブランドを立ち上げた現在の心境や服作りへの熱い思いを、展示会場となったソロイスト「Lab.(ラボ)」でたっぷりと語ってもらった。


ー「TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.」に込めた思いや立ち上げの経緯について

 よりプライベートな方向へ向かうべきだと思ったんです。
 これから東京の服がもう一回ちゃんと盛り上がっていくには、そのひと本人のスタイルが出ていないと意味がないというか。今回はこういうテーマでコレクションをつくる、と決めるのではなくて、いつまでもこれは"宮下"であると。そういった事をやりたかったんですよね。たぶんそういうものづくりをしていかないと日本の未来は暗いというか。

 変わらずしても、変わっても、ほんの少し後ずさりしても、やっぱりこれは"宮下の服"といえるものがデザイン。僕の服を理解してくれて欲しいと思ってくれる人、スタッフは大前提ですが、服作りに関わっている人を含め、その全員に対してさらけ出さないといけないと思っていて。それがたぶん、これからいろんな人が向かうべき方向だと思うんですね。

 僕が思うのは、全員が "ソロイスト" なんです。お客さんも、卸先の方も、工場も生地屋さんも、付属屋さんも、僕も、僕のスタッフも全員がそう。それで何か出来上がればいいと思っています。何かのアイコンになるのはもうまっぴら。プライベートをさらけ出すだけ。僕はただ洋服が作りたいだけです。


ー#s.001のレイヤードホースライディングジャケットがブランドを象徴

 この1着のジャケットを完成させるのに、もう何ヶ月も時間をかけました。何度もトワルを組んで、付けてはとって、とっては付けて。この1着が「TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.」のはじまりです。


ー服作りへの更なるこだわり

 基本的には自分のサイズ感を中心で考えていて、アイテムごとにバランスを保っています。あと、裏地がべっとり張り付いているものより、ジャージー素材が肌に触れる方が気持ちいい。接着芯とかケミカルな資材がなくても洋服は作れますから。そういったものが入るか入らないかで洋服がずいぶん変わります。いい例は参考にしますが、そういった副資材は、今の僕にはいっさい必要ないな、と。

 それよりも、これまであまり使わないで余っていたものとか、開発されるべきなのに、みんなあまりにも使わないから開発をしてくれなかったようなものを、今回は無理矢理、しかも同じ色でたくさん使ったりしました。例えばカラークロスなどがそれです。

 スタイリングとしては、パジャマスーツを着て、その上に好きなコートなどを羽織ってもらうのが理想ですね。カチっとしたスーツを毎日着ろといわれても僕は着れない。信号が赤になりそうだったら走りたいですし、あと自転車も乗るんで。それに適してないものは必要ないんです。このコレクションをみれば、僕が普段どんな生活を送っているのか、きっとプライベートがわかります。


ーコレクションイメージに変化はあるか

 前のデザインとの違いでいうと、どうなんですかね。ナンバーナインのいくつかは昼間のイメージのものもありましたけど、だいたいが "密室の中" や "夜中" のイメージだった。それに比べると今回の服はすごくクリーンだと思います。お昼寝みたいな感じ。日曜日のちょっと遅いランチを奥さんと食べに行くような。(いないですけど。)


ーなぜシーズンを外した時期に展示会を?発表形式に対する考え

 まず、これまでこうして人前に出ることはなかったですね。展示会場にいても外でお茶を飲んでいたりして、偉そうにしていた訳ですよ。でもなんか、こういうのに恋しくなってしまったというか。洋服の近くにいてあげたほうがこのコ達も嬉しいだろうし。それと、このアトリエで展示会を開くとき、自分の部屋のようにレイアウトし直したんです。居心地のいい空間。日本ではずっとここでやればいい。

 ショーをやる価値というか、何か自分なりの違うやり方を思いつけば、今後何かやりたいとは思っています。それもやっぱり、独りでどうのというわけではなくて話し合って決めたり、みんなでいかにして僕を料理してくれるかって。僕も自分自身の料理のしかたを思いついてみたいので、みんなでそれが出来たら。たとえばその時に海外に行ってもいいでしょうし。でも、それがただのデザイナーのエゴだったり、自分よがりのものだけだったら全く意味がない。

 僕は惰性に続けることに意味があるとは全然思わなくて。洋服を好きであり続けることには意味があると思う。ショーをなぜずっと続けなければならないのか、という気持ちはあります。ただ、展示会はずっと続けるべき。僕は更にもっと細分化して、その時々に合ったコレクションをその都度発表していきたいと思っています。


ー宮下氏自身の音楽活動について

 個人の音楽活動は今お休みしていますが、やろうとは思っています。ただ次にやろうとしていることは全く変わるんだろうと思います。

 今ずっとジャズとクラシックしか聴いていないんですよ。ここ1年くらい。すごくミニマルなクラシックとか、ピアノ・ジャズでも限られた人だけなんですけど、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットのいくつか、といった感じで、聴きたいと思うのはごく限られた人だけなんです。音数が少なくて、シンプルで、壊れそうなくらい優しいんだけれどタフなふりをしている、みたいな。もっともこの2つと、聴いてもエルヴィス・プレスリー の「Are You Lonesome Tonight」とか。ロックというよりも、ラブソングですね。


ー0からブランドをスタートすることへの覚悟や自信

 覚悟というよりは、今もまだ不安ですよ。自信なんかも持った事がない。ただ愛情です。洋服に対する愛と、あと洋服に携わっている全ての人への愛です。


■宮下貴裕氏が手がける「TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.」ファーストコレクション詳細
 http://www.fashionsnap.com/news/2010/07/takahiromiyashitathesoloist.html