私のように言葉を商売としている人々の中で、一番恐ろしい病気は「認知症」を含む、いわゆるボケであった。ところがそれより恐ろしい病気があることを知った。『マンガ家が描いた失語症体験記』(医歯薬出版株式会社)は、著者、福元のぼるが体験し、今現在も苦しんでいる症状が詳しく綴られている。
 9年前、脳梗塞を起こし倒れた福元だが、幸いにも一命は取りとめた。しかし後遺症として残ったのは「失語症」。自覚症状は明朗なのに、目の前の妻の言葉が理解できない、意味のある言葉が話せない、文字が読めない、書けない。締め切りが気になるけどそれを理解してもらえる方法がない。とにかく人と意思の疎通が出来ないというのは、どんなに不安だったろうか。
 幸いにも、マンガ家だから絵が書ける。絵は頭の中そのままに描くことが出来たので、リハビリは絵でのコミュニケーションとなる。
 もし、自分だったら、と思うと体が震える。絵は全くの不得意だ。前兆からリハビリの方法まで、こと細かく読み込んだ。二人三脚の妻の説明文に泣かされる。専門出版社だけに巻末の資料が詳しい。この病気の存在を知るだけで、一つの心構えとなるだろう。
(東えりか)







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