子供を持つ親にとって、学校とのつきあい方は重要な課題である。教師や他の保護者とのつきあいがあるだけではない。学校には、子供を入学させた瞬間に「自動入会」してしまうPTAが待ち受けているのだ。加納朋子『七人の敵がいる』は、そのPTA参加の問題を題材として採り上げた、意欲的な作品である。
 主人公の山田陽子はやり手の編集者、作家からつけられたあだ名は「ミス・ブルドーザー」だ。その陽子の一人息子、陽介が小学校に入学することになった。保護者会に出席した陽子は、初手から人間関係で失敗してしまう。ビジネスの現場同様、合理主義と攻めの姿勢で乗り切ろうとしたが、「お母さんたち」はそうした理屈だけで動くひとびとではない。PTAの役員決めの席で失言をしてしまい、陽子は他の保護者からモンスターペアレント扱いをされることになった。さらに地域の子供会、学童保育の父母会などの試練が陽子に迫ってくる。兼業主婦と専業主婦とでは住む世界が違うのだという現実を、陽子はそのたびに思い知らされることになるのだ。
「女は女の敵である」「男もたいがい、敵である」「当然夫も敵である」という章題が表すとおり、子育てにつきまとうさまざまな人間関係の問題が扱われており、現在子育て真っ盛りの読者にとっては大いに共感させられる内容である。最後はもちろん「会長様は敵である」。PTAのトップとミス・ブルドーザーはどのような形で対決するのだろうか。
 PTA活動に積極的に取り組んでいる作家・川端裕人には『PTA再活用論』(中公新書ラクレ)などの著書があり、漫画家のまついなつきも『まさかわたしがPTA!?』(メディアファクトリー)という体験エッセイを発表した。PTA問題についての関心は徐々に高まりつつあるといえるだろう。
 なお、この稿の筆者は現役のPTA会長であり、現在で三期目に突入した。『七人の敵がいる』でラスボス視されている「会長様」なのだが、本書は非常に楽しく読めた。PTAという難問に直面したときに誰もが思う本音が率直に書かれているからだ。役員をやらなければならなくなった人は誰もが「なんで私が?」と思う。その段階を経て、PTA活動に積極的に関わるようになると次の疑問が浮かんでくるのだ。「なんでPTAはあるの?」という、PTAの活動自体に関する疑問だ。願わくば、その領域にまで踏み込んでもらいたかったが、『七人の敵がいる』にそこまで求めるのは行き過ぎだろう。あくまで外側から見たPTA活動(ともろもろの地域活動)の印象について書かれた小説だからだ。
「なんでPTAはあるの?」の問題については前出の川端裕人の著書などが参考になる。「自動入会」と思われがちなPTAだが、本来は任意団体であり参加を強制されるべきものではない。PTAは、子供たちと一緒に保護者自身も成長するための場なのである。だからこそ自らの意志で参加し、活動することが望ましいのだ、と現役PTA会長としては言っておきたい。次はPTAの「内側の人」になった主人公の小説も読んでみたいと思いました。
(杉江松恋)







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