松原良香 「サブメンバーはどうしていいか分からないのでしょう」
FIFAランキング4位の強豪・オランダ相手に0-1という惜敗を喫した日本代表。その中で浮き彫りになった、日本の課題と今後の戦い方のヒント。決勝トーナメント進出を賭けた1次リーグ最終戦・デンマーク戦で日本はどう戦うべきなのか。'96年アトランタ五輪の代表で、Jをはじめ海外クラブでの経験も豊富な松原良香さんに、自身の経験も踏まえて語っていただいた。
――オランダ戦を振り返ってみると、敗れはしましたがカメルーン戦より攻撃的な部分も出ていたかと思います。
ディフェンスラインはすごく成長していると思います。後半、中澤（佑二）と闘莉王は本当にがんばっていた。1本やられそうになったのもありますが、それはGKの川島（永嗣）がキチンと止めましたし。やっぱり、世界大会で自分たちよりも上のチームと戦うときには、GKの活躍は欠かせない。中澤と闘莉王にしても、これまでのミスを自分たちの、そしてチームの糧として成長してきていると感じました。
――後半には、交代出場した岡崎（慎司）選手の惜しいシュートもありましたが……。
松原 決定力の差が出ましたね。スナイデルはあの1本のチャンスをものにしたけど、岡崎はあの1本をものにできなかった。でも、あれを決めるのが岡崎の仕事なんです。
僕もアトランタ五輪のとき、彼と同じような立場だったからよくわかります。予選大会のときはオグ（小倉隆史）が怪我をしていたこともあって、調子のよかった自分がいちばん点を取っていたけど、本大会ではスーパーサブという立場に変わった。そのとき、西野（朗）監督（現・ガンバ大阪監督）からは「点を取るために、お前を呼んだ」と言われましたし、実際それが僕の仕事だった。あそこで1点取れば、2点目を取れるチャンスが出てくるんですよね。
ただ、現実的には今の日本が2点以上を取るのは難しい。本田（圭佑）の1トップと言っていますが、実質的には0トップと言っていいでしょう。それはたとえば、前半に松井がドリブルでチャンスを作ったときの、本田の動きを見れば一目瞭然。普通、センターフォワードだったら、優先順位的に一番に相手の背後を狙いますよ。でも彼はFWじゃないから足元で受けてしまう。そして、得意の左足でドカン、というのを狙っているんですよね。
大久保（嘉人）も、自分でやるという姿勢がだいぶ出てきた。この間もオランダ相手に恐れることなくプレーできていたと思いますが、チャンスのときに味方を使えていれば、もっとゴールの可能性はあったと思う。大久保の放った3本のシュートは、残念ながらほとんど可能性がないシュートだったと僕は思いますね。
――そして後半には、松井大輔選手のポジションに、中村俊輔選手を投入しました。
松原 松井はゴールに向かってドリブルをしたり、自分から仕掛けてチャンスを作れる。最初のコントロールの入れ方も、次のプレーのことを考えたうえでするから、相手にとっては脅威になるんですね。タメと動き出すタイミングの両方を作れる、というのが彼のいいところ。ですが俊輔の場合は……残念なことに全般的に受け身だった。
本調子ではないから、という見方もあるかもしれないけど、プロはピッチでやれるか、やれないか。言い訳はできない。僕はスイスやクロアチアのクラブでプレーしたけど、ビッグクラブに移籍することはできなかった。理由は簡単。僕がゴールを取れなかったから。俊輔も同じです。プロは結果を出せなければ意味がない。
ただ、俊輔だけではなく交代した選手がみんな機能していなかったことは確かですね。その原因のひとつには、韓国戦のあとに岡田監督が急に戦い方を変えたことがある。3年間積み上げてきたパスサッカーから、引いて引いてのカウンターサッカーへの180度転換。レギュラーは実戦の中で慣れていく部分もあると思うけど、サブメンバーは急に入れられても、どうしたらいいのかわからないのでしょう。
――では、デンマーク相手には、どのような戦い方が予想されるでしょうか。デンマークはカメルーン戦で、守備面でのミスが頻発し、センターバックのケアーも出場停止と、日本に有利な要素もあります。
松原 ただ、デンマークにはベントナーという長身のセンターフォワードと、右サイドにアヤックス（オランダ）のロンメダールというやっかいな選手がいる。彼らふたりだけでなんとかできてしまうのが怖い。実際、カメルーン戦でも彼らがゴールをあげていますから。高さがあって球際も強い。日本も容易に前に行くことはできないでしょう。ですが、日本に勝機がないわけじゃない。なんといっても、日本は引き分け以上で決勝トーナメント進出ですが、デンマークは勝ち以上の結果を出さなければならない。そうなると、彼らはどうしても勝つために攻め急いでくるでしょうから、試合の入り方も違ってくる。
サッカー的には、オランダ戦での後半残り20分くらいの、闘莉王たちが死にもの狂いでボールをおっかけて、日本の特徴である連動性のあるサッカーができれば、絶対にいけると思いますね。あの時間帯は、自分たちから動いたからこそ、ああいう形になった。でも、あれが日本のよくないパターンであるリアクションサッカー――いわゆる相手の動きに合わせた、相手ありきのサッカーをしていたら絶対に無理。自分たちからアクションを起こしさえすれば、勝機は絶対にあると思います。
――日本が決勝トーナメントに行ける可能性は、どれくらいあると思いますか？
松原 期待を込めて(笑)、7：3で行けると思っています。今の日本で2点を取るのは難しいから、ベストなのは1−0。ただ、極端なことをいえば、0−0でも決勝トーナメントへは行けるわけですから。今の日本からゴールを奪うのはけっこう難しいことだと思いますよ。
ファンはどうしても「ワクワクする、攻撃的な素晴らしいサッカーで勝つ」ことを期待しがちだ。だが、W杯のような世界最高峰の大会では、いわゆる強豪国でさえそれが難しい。その中で勝ことのできるポイントはどこなのか。日本は、どのストロングポイントを武器にして戦うべきなのか。現実的なその意見と感想からは、厳しい環境を渡り歩き、多くの国のサッカーを知る松原さんならではの重みを感じた。
インタビュー・文／飯嶋玲子
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■松原 良香 プロフィール
まつばら よしか、1974年8月19日生まれ。
静岡県出身、サッカー指導者。
現役時代のポジションはFＷ。
現フェリーチェサッカースクール代表・暁星国際学園ジェネラルマネージャー
JリーグOB会（J-OB）理事。
