本格ミステリ作家クラブが主催する、本格ミステリ大賞の第10回授賞式が6月19日に開催された。小説部門では、第4回の受賞者でもあり初の重賞者となる歌野晶午が最初にスピーチを行った。今回の受賞作である『密室殺人ゲーム2.0』(講談社ノベルス)について、山口雅也が1994年に刊行した短篇集『ミステリーズ』(講談社)のあとがきで、ミステリーの歴史は技術的挑戦の歴史でもあるが近年は軽視されつつある、と述べたことに触発されて技術面での挑戦をしてきたと明かし、山口に感謝の意を表した。
 同じく小説部門を『水魑の如き沈むもの』(原書房)で受賞した三津田信三は、本格好きのミステリーマニアとして出発しながら、ホラー分野へと嗜好が変遷していった自分が、再びミステリーの世界に戻り、受賞へとたどりついた不思議について語った。ちなみに小説部門の正賞トロフィー贈呈者は同クラブ会長の辻真先だが、受賞者への花束贈呈は前年度受賞者である牧薩次が行った。そうなると壇上でどれだけたいへんな事態になるか、辻と牧の関係を知っている読者だけが想像してニヤニヤしてみてください(わからなかったらググろう)。
 評論・研究部門の受賞者である谷口基は、『戦前戦後異端文学論』(新典社)が思いがけずミステリーというジャンル文学の側から評価を受けたことについて謝意を表し、今後は変格探偵小説研究者の立場から本格ミステリーについての研究も進めていきたいと抱負を述べた。
 また、2000年以降の10年間の作品の中から選ぶ「海外優秀本格ミステリ顕彰」最優秀作にジャック・カーリイ『デス・コレクターズ』(文春文庫)が決定したことは本欄既報の通りだが、作者からもメッセージが届けられ、担当編集者が代読した。その内容は、国境や距離を超越した本格ミステリー愛を表明する感動的なもので、会場に集まった作家たちからも嘆声が漏れた。さらに同書を翻訳した三角和代氏も壇上に立ち、作品への思いについて語った。現在アメリカ・アラバマ州で起きている大規模な原油流出事故の現場は、ちょうど『デス・コレクターズ』の舞台となったあたりなのだとか。殺人鬼も跋扈するは、原油も流出するはでたいへんだ、アラバマは。
(杉江松恋)







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