祥伝社40年記念作品はちょっと変わった伝記集

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 ジャック・ケルアック、ジェームズ・ブラウン、ルイ16世…。
 『ガリマール新評伝シリーズ 世界の傑物』ラインナップは一見何の共通点もない、バラバラなものに思えるが、それぞれを読むと、実はそれがあるコンセプトに基づいて揃えられたものであることに気付く。
 発行元である祥伝社はこのシリーズにどのような思いを託したのか。このシリーズを担当した小川編集長にお話を伺った。(『ガリマール新評伝シリーズ 世界の傑物』 特設ページはコチラ!

◇ ◇ ◇

―今回、フランス・ガリマール社の評伝シリーズを翻訳・出版したきっかけがありましたら教えていただけますでしょうか。

小川「ガリマール社のペーパーバックスシリーズは、作家や画家、映画監督、俳優、政治家、学者など時代も国籍も違う様々な人物の伝記を出しており、以前から私が興味を持っていたということがあります。また、日本は政治・経済共に元気がありません。そんな時だからこそ、歴史上の人物から学べることは多々あるのではないかと思い、出版を決めました。歴史上の人物の人生に触れることによって、日本の社会をもう一度見直そう、という大それた狙いもあります」

―今回の評伝集の出版にあたって、編集者の立場で苦労した点、慎重になった点を教えていたただければと思います。

小川「苦労した点は特にないですよ(笑)ただ、今回の評伝シリーズは、ガリマール社からこれまでに出ている50〜60作の伝記の中から、より面白くて読みやすく、ワクワクするものをピックアップして翻訳し、刊行しています。その人選をする際の下訳には十分時間をかけ、内容をよく吟味しました。
カフカの評伝もやってみたいとは思いましたが、内容を読んだところ、ありきたりな内容でしたのでボツになりました。そういった選別には非常に時間をかけましたね」

―膨大な量の伝記をお読みになったのでしょうね。

小川「最初にある程度候補を決めておいて、そこから選んでいく、という方法で選別したので全部を読んだわけではありませんが、それでもかなり読みました」

―今回の人選のポイントはどういった点だったのでしょうか。

小川「やはり、内容を吟味して面白いもの、そして日本人に幅広く人気があり、今のタイミングで最も読まれるであろうと想定できる人物を選びました。カミュやチェーホフなど、女性に人気のある人物も入れましたね。それぞれジャンルも国籍も時代も違いますが、共通するコンセプトとしては、現在日本人に必要とされている“人間力”に溢れた顔ぶれを作ろう、というものです。
今回ピックアップした人物達は、偉大な足跡を残しながらも、必ずしも成功、栄光だけではないんですよ。悲劇的な運命を背負っていたり、挫折や失敗を繰り返したりしているんですよね。そんなところが我々に親近感を呼び起こします。また、読後感がどの作品も爽やかだということも今回の特徴ですね」

―かなり独特な人選だという感想を持ちました。ケルアックジェームズ・ブラウンの伝記にはなかなかお目にかかれないですからね。

小川「そうですね(笑)。そもそもガリマール社の評伝シリーズで取り上げられている人物がバラバラなんですよ。
ケルアックは一時代を築いた人で、中高年に人気がありますし、ジェームズ・ブラウンはご存じの通り、幅広い層に愛されています。彼の伝記を読んでみたいという読者の声もあり、そういったものも人選の参考にしました」

―個人的にケルアックは大好きなので、ラインナップに入っていてうれしかったです。

小川「ケルアックの刊は面白いですよ、小説の裏側が見えてね。伝記を読んでから小説を読んでみると、彼の違った魅力が見えると思います」

―本文はもちろん、今回の評伝シリーズはどの作品も解説文の出来がすばらしかったです。解説者の選定は小川さんによるものなのでしょうか。

小川「そうですね、各巻共に大変すばらしい解説をいただきました。解説に関しては、最初から“この人にはこれ”と決めていたんですよ。僕と、一緒にやっているプロデューサーとで決めたのですが、最初から決め打ちしてお願いしました。池澤先生はケルアックに関して第一人者ですし、ルイ16世ならフランス文学者の鹿島茂先生、ということで、ピッタリくる方々に書いていただけたと思っています」

―今回の評伝シリーズでは取り上げていない人物で、小川さんが個人的に評伝を出版したいと考えている方はいらっしゃいますか?

小川「フランスの本家でも出ていないのですが、ボブ・マーリーやスターリンの伝記はぜひ読んでみたいですね。あとはガリマール社の評伝シリーズには日本人の伝記がないんですね。日本人にも偉大な人物はたくさんいますので、日本人の伝記も読みたいと思います」

―今回の評伝シリーズを通して日本人にどんなことを感じ取ってほしいとお考えですか?

小川「例えば、今回のピックアップしたルイ16世は、日本ではあまりいいイメージがなく、どちらかというと優柔不断などネガティブなイメージが強いのですが、この評伝を読むと全く逆なんですよ。逆説的ですが、人民のことを思うあまりに、結果的に人民に殺されてしまった、という一面が読み取れると思います。伝記はギロチンにかけられるシーンから始まるのですが、その時の彼の心理状況が刻々と書かれていて実に面白いです。
このように、それまでのイメージとは全く違った人物像が見える評伝シリーズだと思います。単なる成功・栄光の記録でなく、人物そのものが描かれているので、親近感を持って読めるのではないでしょうか」

―最後になりますが、このインタビューページの読者の方々に、何かメッセージがありましたらお願いいたします。

小川「迷った時、困った時は歴史を読めといいます。このシリーズで取り上げた人物の“人間力”をぜひ感じ取ってほしいです。このシリーズでは、彼らも私たちと同じように悩み苦しんだり、喜んだり悲しんだりしている心理を描いています。そんな点に注目して読んでみてほしいですね」
(取材・記事/山田洋介)

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