生誕80年、天才作家・開高健の自伝が復活

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 今年2010年は、小説家・開高健の生誕80年にあたるのだそうだ。

 開高健といえば数々の傑作を世に送り出した昭和の大文豪である。筆者自身も「輝ける闇」に見られる、いかにも人間臭く、じっとりと塩辛い汗を連想させる比喩や、「裸の王様」の冷徹な寓話性が好きだ。
 
 そんな開高の長編『耳の物語』がイースト・プレスから文庫で刊行された。この作品は1989年に新潮文庫からも刊行されており、約20年ぶりの復活となる。

 内容はというと、開高の自伝である。しかしただの自伝ではない。冒頭で、ボードレールが匂い、つまり“鼻”から過去の記憶を呼び起こしたことを引き合いに出し、この作品で開高は耳から過去の記憶を探っていくのである。

 彼の記憶の中の音は紛れもない“昭和の音”であり、彼の記憶の中の風景は“昭和の風景”である。本作を通じて彼と記憶を共有できる人間の数は減っているし、私自身も彼との共通体験はほとんどない。しかし、それでも読む者は描かれた音や風景を懐かしいと感じてしまうし、懐かしいと感じさせてしまう本作はたまらなく魅力的だ。

 開高の作品に触れたことのない人には、開高の広い入口となるし、既に同氏の作品を読んだことのある人にとっては、彼の新たな魅力に気づかされる。そんな一冊である。
(新刊JPニュース/山田洋介)


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