世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらう。

 いよいよ開幕するワールドカップにちなみ、6月のテーマは『仕事の極意はスポーツ選手から学べ、プロの極意がわかる3冊 』。
 今回登場するのは「ワールド文学カップ」フェアを大成功に収めた紀伊國屋書店新宿本店 ピクウィック・クラブの皆さん。どんな3冊を選んだのか?


◆『わが秘密』

著者:フランチェスコ・ペトラルカ/翻訳:近藤恒一
出版社:岩波書店
定価(税込み):798円

 ペトラルカという人は、詩人でありながら、今でいう「登山」という哲学的スポーツを最初に体験し、それを記録として残した「元祖・登山家」ともいうべき人物です。「山登りのために山へ行く」のは、現在では当たり前のことになっていますが、ペトラルカ以前の「登山」という行為は、宗教目的であるか、単に旅の最中に越えなければならないものとして山があるという以外に、記録は残っていません。詩人かつ登山家、というとなんだか青春の塊!という感じがして眩しいものがありますが、青春は例外なく「ダサい」ものでもあります。何もかもがうまくいくだなんて、青春とは言えません。ペトラルカも例にもれず、とにかく悩みます。ラウラという人妻に恋をして、悩みます。弟との関係性にも、悩みます。どうしたら自分は救われるのか、悩みに悩みます。結局ペトラルカ自身は答えが出せていないのですが、「思考を極限まで突き詰める」ということについて、普段なんとなくぼんやりと生活をしているわたしたちには失われているものが、ここにはあるような気がします。


◆『ソドム百二十日』

著者:マルキ・ド・サド/翻訳:渋澤龍彦
出版社:河出書房新社
定価(税込み):661円

 エロティシズムの内にロマンティシズムを見出だせなくなった時、それはただ快楽を求めるための運動となる。つまりはスポーツだ。このスポーツに長じていると吹聴する人物は数多いが、そんな人々の中で燦然と輝いているのがサドであり、この『ソドム百二十日』である。四十六人の男女が百二十日間に渡って繰り広げる淫行の数々は、まさしくソドムとゴモラ以来だれも考えおよばなかった世界で、それを記録することは性の百科全書を作り上げるような趣さえ呈している。この大乱交パーティーを企画したのは四人の道楽者で、快楽を執拗に追い求める彼らの姿勢はアスリートそのものだ。プロフェッショナルは手段を選ばない。目標のためになら法律など存在しないようなものだ。実際、この饗宴に参加する人物の内三人もが、犯さなかった犯罪などただの一つもないことが明かされている。そして、その祭典を記録しようとするサドの筆致もまた、アスリート特有の厳格と真摯に満ち満ちているのだ。同じ文脈でバタイユやジャリを薦めることもできた。だが彼らは性に対するロマンティシズムを手放してはいない。ここはやはりサドの領分なのだ。彼こそがアスリートである。


◆『道頓堀川』

著者:宮本輝
出版社:新潮社
定価(税込み):420円

 道頓堀にある喫茶店のマスターはかつてビリヤードに命をかけ、妻に逃げられた過去を持つ。息子もまたビリヤードで名を馳せようと努力しているが、それが親子の溝を作る。登場人物たちはみな影を持っている。嫌な奴だと思っても、その影を見ると声援を送りたくなるのはどうしてだろう。ぬるりと濁った道頓堀川も、夜になってネオンがあたると綺麗に見えるのは何故だろう。やがて親子はビリヤードの勝負をする。たかが玉突きといえばそれまでだけど、両者の賭けた想いに酔いしれる。突いた球に想いを認め、日が照らすから影に惹かれる。それは一瞬の煌めきであり、だからこそ夜の道頓堀はこんなにも美しく映るのではないだろうか。ビリヤード。奥が深い。


◇   ◇   ◇

【今回の書店】
紀伊國屋書店 新宿本店


住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

ウェブサイト
紀伊國屋書店ピクウィック・クラブ ブログ

Google Map


『書店員が選ぶ「わたしの3冊」』ブクナビにて配信中!
過去のアーカイブはこちらから



【関連記事】
ブックファースト アトレ吉祥寺店 辻直子さんに聞く『心の底から笑えるエッセイ』
紀伊國屋書店ピクウィック・クラブに聞く『心の底から笑えるエッセイ』
書店グランデ 広瀬祐理さんに聞く『心の底から笑えるエッセイ』

【新刊JP注目コンテンツ】
書店員たちの“本気”が詰まったフェア