労働問題にまつわる報道はウソだらけ?

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 「ワーキングプア増加問題」と「非正規雇用の増加」がセットにして報道されるようになって久しい。「学生の就職難」や「格差社会」といったテーマと一緒に語られることも多いこれらの問題だが、報道や書籍でこれらが語られる際に使われるデータには、信憑性に疑問符がつく、ちょっと怪しいものが数多く含まれていることをご存じだろうか。

■“ワーキングプアは546万人=労働者の4人に1人”はホント?
 エコノミスト・門倉貴史氏の著作『ワーキングプア』(宝島社/刊)は、“ワーキングプアが大増殖している”という、現在もはや常識のように語られている風説の元になったといってもいい書籍だが、その論拠となるデータには思わず「?」となってしまう点がある。

 例えば、“2005年度のワーキングプア(作中で“働いているのに年収200万円未満の人”と定義)は546万人で、全労働者の4人に1人”という旨の記述であるが、これが本当だとするなら日本の全労働人口は2184万人しかいないことになってしまう。日本の人口は1億2000万人ほどいるわけで、労働人口は全国民の6人に1人、これはどう考えてもおかしいのではないか。
 『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社/刊)著者の海老原嗣生氏は、データの出典元が適切ではないと指摘している。この記述の論拠となった「賃金構造基本統計調査」とは、役所が民間企業にアンケート用紙を配り、その回答を単純集計したもの。つまり、そのアンケートに回答しなかった企業は含まれないのだ。
 また、海老原氏は「賃金構造基本統計調査」に関して、短期ワーカーやパートタイマーなど、職場の掛けもちが多いこれらの人々が何社にも重複して非正規雇用者としてカウントされてしまうため非正規雇用者の人数確認にも適していない、ということも指摘している。

■実際はどうなのか?
 現在の報道を見る限り、あたかも正規雇用を減らして非正規雇用を増やしているかのように報じられているのだが、実際はどうなのだろうか?
 統計局「労働力調査」によると、この問題で取り上げられることの多い30〜34歳の男性を見る限り、2002〜2005年の間で非正規社員は29万人から41万人へ、12万人増えているが、同時に正規社員も372万人から387万人へと15万人増えている。これは労働参加者が増えたということを示すものであり、非正規雇用が純粋に増えたとはいえないはずだ。
 この点について海老原氏は“大体どの識者が「正社員が増えた・減った」と語る場合でも、総人口(生産年齢人口)のことが忘れられている”と指摘し、“精査すればワーキングプアは大幅に減る”とも述べている。

 これらアラの目立つデータをそのまま使うというのは何も門倉氏に限ったことではなく、マスコミまでもがそれを流用してしまうことが多いと海老原氏は述べている。『「若者はかわいそう」論のウソ』ではこの他にもワーキングプア問題や非正規雇用問題に対して、一般に信じられている説のウソを指摘している。
 話題に上ることの多い問題だからこそ、正しい知識を持っておきたいものだ。
(新刊JP編集部/山田洋介)


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