世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらう。

 5月のテーマは『心の底から笑えるエッセイ』。
 「5月病」という言葉に代表される通り、何かと憂鬱になりがちな5月。2010年5月17日まで紀伊國屋書店新宿本店で開催されていた「ワールド文学カップ」を大成功に導いた彼らはどんな本を選んだのか。


◆思ってたよりフツーですね (1)

著者:榎本俊二
出版社:角川書店
定価(税込み):945円

 この本はギャグマンガ家の榎本俊二によるエッセイマンガです。紹介としてはそれだけで十全と言えるほど、榎本俊二のマンガを知っている人なら榎本俊二の人となりが気にならないわけがなく、そのようなニッチを狙い打ちにした青春エッセイマンガとして企画されたもので、作家の力を見込んだ見事な見切り発車であることからも予見されたとおり、だんだんと青春エッセイから近況報告に変わっていくフツーのエッセイです。
 作者が青春時代に好きだった映画・マンガ・小説の話は、最近好きな映画・マンガ・小説の話へ、人間関係も同様に、作者の年来の友人・家族・編集者の話題が過去から現在へスライドしていき、となればところどころに登場する有名どころの作品や人物の楽屋オチで引っぱっていくのかと思いきや、読者からすれば無名の一個人である編集者や著者の友人が、作者のイラストのデフォルメ具合も相まって、じょじょにキャラ立ちしていくさまはまさに、楽屋オチです。
 べつに誰も待っていないのが明白なうえであえて単行本に通し番号の「1」をふり「2」がでないというオチを匂わせつつ、出たら買ってしまうのもまた自明と思わせる榎本俊二の日常の魅力はそもそもエッセイから入ってもわからないので、とりあえず万人にお勧めの傑作マンガ『ムーたち(全二巻・講談社)』を読んで、まだ覚えていたら本書を手に取ってみるのもいいと思います。


◆夏目漱石全集〈10〉

著者:夏目漱石
出版社:筑摩書房
定価(税込み):1050円

 漱石のイギリス留学の日々は悲惨なものだった。ところが、ロンドンの鬱々とした雨の空というイメージに反して、ここに収録されている「自転車日記」は微笑ましい。「自転車に御乗んなさい」とアパートのババアに言われて練習をすることになり、自転車選びの必死さからも彼の奮闘ぶりが伝わってくる。心情は憂鬱なのに言葉には余裕があり、自転車に乗る姿勢とは反比例して口調は軽やかである。言葉遊びが光るこの作品を読む限り、漱石は憂鬱すら楽しんでいるように思えてならない。また、読者は自転車の練習をしていた遠い昔を思い出し、あの懸命さを懐かしむだろう。いつの時代も自転車に乗る人は必死であり、そこにはそれぞれのドラマがある。ま、漱石は乗れなかったけどね。


◆気になる部分

著者:岸本佐知子
出版社:白水社
定価(税込み):966円

 「この人とは合いそうだなあ」と思うポイントは、結構ヘンなところにある。それは普段ひとに言わないような「気になる部分」が一緒だったときだ。単なる「あるある感」よりもっと些細でどうでもいいこと、それが同じだとなんだか根本的なところで近い気がしてくる。例えば〈トラックの車輪の後ろにぶら下がっている、あのビラビラしたもの〉。あれはつまり泥除けなのだが、ずっと気になっていた。自分の中では漠然と「ビラビラした何か」であって、「泥除けだよ」と教えられてもどうしてもいまいちぴんとこないのだ。普段は誰にもこんなことは言わないが、このエッセイを読んでいたら「ビラビラが気になる」とあって、驚いた。まさか「トラックのビラビラ」でシンパシーを覚えるとは思わなかったので、そうなのよ、そうなのよと、とにかく笑いが止まらなかった。
 この本は、普段から気になる部分や事柄が多ければ多い人ほど、読んでみてほしい。きっとたくさんの「気になる」に引っかかって、奇妙な喜びと笑いにつつまれてしまうに違いない。


◇   ◇   ◇

【今回の書店】
紀伊國屋書店 新宿本店



住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

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