何はともあれまずはこの写真を見てほしい。

 よくある新刊書籍の広告帯…かと思いきや、おかしな点があるのにお気づきだろうか?

 わからない人のために拡大してもう一度。


 「新人宮部みゆき」・・・・??

 宮部みゆきさんといったら、『模倣犯』『ブレイブ・ストーリー』などヒット作品を数多く持ち、直木賞も受賞しているミステリー・時代小説の大家である。大御所と呼ばれるならわかるが新人とはどういうことか?

 気になるところはそこだけではない。

 “あなたは思い出す どれだけ小説を求めていたか”



 “物語の全てが詰まった700ページの宝箱”

 多くの新刊書籍にはこのように“少々奮発しすぎではないか?”と思うほど景気のいいコピーが並ぶものだが、このコピーはどのようにして考えられているのだろうか。


■超大物作家が“新人”の理由
 
 この『小暮写眞館』、講談社創業100周年記念として企画された「書き下ろし100冊」の中の一冊だ。これまでにも大江健三郎さん、重松清さん、平野啓一郎さんら、著名作家が書き下ろし作品を刊行している。そこに今回の宮部みゆきさんである。
 しかし、本作はAmazon等で調べても、内容についての情報がほとんど手に入らない。本作の担当編集である西川太基さん(講談社)によると、読者に先入観を持たずに読んでもらいたいという気持ちからきたもので、“書き下ろし”であるということを最大限に生かすための戦略なのだそうだ。

 内容がわからないと余計に“新人”というフレーズや、コピーの真意がわからず気になってしまうわけだが、20年以上第一線で書き続けてきた大物作家をなぜ今“新人”と呼んだのか?
 西川さんによると、その理由は3つ。
 作家としての実績を積むと連載の仕事が増え、書き下ろしはあまりしなくなる。つまり書き下ろしは主に新人作家の仕事なのであり、これにチャレンジしたことが「新人 宮部みゆき」の理由の一つである。

 また、連載小説は掲載される度に読者の反応がわかるため、手ごたえも感じやすいが、書き下ろしにはそれがなく、読者に自分の作品がどう読まれているかがわからない。「こんなにドキドキしているのはデビュー以来初めてです」と宮部さん本人が言っていたことも「新人」の理由だ。

 3つ目の理由は、作品の内容自体が、これまでの宮部作品と異なるという点。
宮部さんといったらミステリーのイメージが強いが、『小暮写眞館』はその要素はかなり薄い。全四話で構成され、家族の絆や生と死、過去との向き合い方、戦争や愛などのテーマが散りばめられた、一般小説に近い内容となっている。しかし第一話〜第三話の内容は全て最終話に向かっている。つまり作品全体として壮大な規模のミステリーになっているのである。西川さんいわく「なかなかお目にかかれない、新しい小説になったのではないでしょうか」。



■「できあがった原稿をまとめてみると、分厚くて“箱”のようだった」
 
 新刊書のキャッチコピーについても、西川さんが考案したものだ。
 “物語の全てが詰まった700ページの宝箱”については、「原稿をまとめてサンプル本を作ったら分厚くて“箱”みたいに見えたんです。電子書籍の話もあるなか、ページをめくりながら色々な気持ちになり、感情を揺さぶられながら順を追って読んでいく紙の書籍の特徴を捉えて“素敵なものが詰まっている三次元の物体”というニュアンスを出したかったのでこのコピーに決めました」とのこと。
 “ちょっと煽りすぎなのではないか?”という疑問には「それも考えましたが、間違ってはいないと思います」と作品の質には自信を持っている。

 “あなたは思い出す どれだけ小説を求めていたか”というコピーについては『書き下ろし100冊』という企画自体も意識し、「講談社創業100周年というせっかくの機会なので、読者の方一人ひとりの“生活の中にある小説・物語”というものに触れる言葉はないかと考えて決めました」と語った。


■「講談社書き下ろし100冊」に続々登場する大物作家たち
 
 「講談社書き下ろし100冊」は今後も続々と刊行される。
 浅田次郎さんや東野圭吾さん、大沢在昌さん、柳広司さんらもこの企画に向けた作品を執筆予定とあり、要注目だ。
 今回取り上げさせていただいた『小暮写眞館』は5月15日(土)発売!
 宮部さんが切り拓いた新境地を、ぜひその目で確かめてみてほしい。

※ちなみに『小暮写眞館』初版の帯は2種類あり、書店にはどちらの帯がついた本が並ぶかわからないそうだ。一つは“もう会えないなんて言うなよ”というコピーが入ったもの。もう一つはこれに対する返答で、物語の性格が一目でわかってしまうコピーが入っている。果たしてどのようなコピーなのか?是非書店に足を運んで確認してみてほしい。
(新刊JPニュース/山田洋介)

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