“死刑囚から臓器を摘出し、移植”中国の実情を描いた傑作

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 中国の国営英字紙「チャイナ・デイリー」が、同国で行われている臓器移植手術で使用される臓器の65%以上が死刑を執行された死刑囚から摘出されたものだと報じたのは昨年8月のこと。
 中国では2007年、死刑囚の同意なしに死刑執行後に臓器が摘出されているとの批判を受け、臓器移植の規制が施行されたが、長く続いてきたこの慣習は未だに残っているという。

 中国出身の作家であるイーユン・リーの長編小説『さすらう者たち』(河出書房新社/刊)にも死刑囚から臓器(腎臓)が摘出される場面がある。文化大革命後の1979年春、政治犯として捕えられていた28歳の女性・顧珊(グー・シャン)は生きたまま腎臓を摘出され、その後銃殺された。

 珊と同い年の凱はこの判決に疑問を持ったメンバーらと共に抗議活動を始める。初めは政府に潰されると思われていたこの活動だが、首都・北京に人民の声が反映される政治を求める「民主の壁」が出現したことで状況は一変、人々は裏切りや密告を恐れ、物語の舞台である渾江は緊張状態となる。
 「民主の壁」を中国政府が容認すれば、珊の処刑に関わった人々は自らが犯罪者となる可能性があり、逆ならば抗議行動を行った人々は処刑対象となるからだ。

 処刑という一つの事件の発生から終結、日常生活の復元までを、魅力的な登場人物たちの眼を介して複眼的に捉えた本書は見事という他ない。何かと話題の中国だが、本作は同国の国家的性格の一面を確実に捉えたといえる。個人的には、よく似た形式で書かれた『予告された殺人の記録』(ガブリエル・ガルシア=マルケス)にも劣らない傑作だと思っている。
(新刊JP編集部/山田洋介)

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