ゆとり教育が子どもたちに残していったものとは

写真拡大

 東野圭吾氏の短編小説集『毒笑小説』(講談社)に掲載されている「誘拐天国」でこんなシーンがある。

 誘拐犯たちが誘拐した子どもを遊ばせようとするのだが、その子どもは「勉強しなくていいのかな」と言ってなかなか遊ぼうとしない。
 実は誘拐犯たちは孫とゆっくり遊びたい祖父たちなのだが、頑なに勉強のことを気にする孫に「子どもなのに遊ばないなんて…」と呆れ返ってしまうのだ。

 近年、右往左往する教育現場の中で、子どもたちの変化は顕著に見られる。
 2002年度から「ゆとり教育」が実施されたが、その現場で起こったことは「危機的状況」の発生だったと教育評論家の尾木直樹氏は『子ども格差』(角川書店)で述べる。

 今や中学生全体の4人に1人が、女子中学生の3人に1人がうつ傾向、2009年3月の東京都発表のデータによれば中学・高校生の5〜6割が自分を否定的にとらえており、まるで社会全体の自信の喪失が、子どもたちにもそのまま影響しているかのような状況が繰り広げられている。
 さらに、先日行われた事業仕分けでも話題になった「全国学力テスト」。こちらは2007年から再開したが、この数値目標による「成果主義」の実施が子どもたちの心に大きなプレッシャーを与えていると尾木氏は指摘する。

 今の子どもたちは不景気にあえぐ日本の姿しか知らず、不安とともに成長してきた世代だ。過度の期待を受けながら、その一方で、成果主義などによる競争社会に巻き込まれ、大人の都合で子どもたちの生活が激変している。

 では、子どもたちを救うにはどうすればいいのか。
 尾木氏は『子ども格差』の終わりで、家庭、学校、地域が一体となった「子どもの居場所の確保」を掲げ、「地域ぐるみの子育て」が必要であると主張する。

 「誘拐天国」に出てくる子どものように、「遊ぶこと」に慣れない子どもたち。
 確かに競争社会に勝ち残る人間を育成するために数値で競わせ、成果主義にこだわることはとても重要である。しかし、そうした子どもたちが大人になったときどのような社会を作ろうとするのか。
 本書の主張は少し極端に思えるかも知れないが、今、教育を受けている子どもたちが成長したとき、どのような社会になっているのか。「教育の成果」はおそらくそのときに判明する。そのとき「あの施策はダメだったよね」とならないように、より深い議論を行って欲しい。
(新刊JP編集部/金井元貴)


【関連記事】
人材育成の秘訣をクイズでマスター!
子供の生まれ持った可能性を引き出す“ヨコミネ式”とは
子どもをめぐる問題の根底にあるのは「自己評価の低さ」

【新刊JP注目コンテンツ】
今からでも間に合う?“脳力”の伸ばし方(新刊ラジオ 第1044回)
品格ある教育を語った名講演が待望の書籍化(新刊ラジオ 第285回)