ダメ男にダメ女…賢いとも有能とも言い難い、どこか冴えない登場人物たちは、たとえ主役ではなくても、時に小説の出来を左右する重要な役回りを演じる。優等生キャラよりダメダメなキャラの方が、感情移入もしやすいし共感できることも多いもの。

 ということで4月のテーマは小説に登場する『これはちょっと…あまりにも気の毒な登場人物』。前回までと同様に、5人をピックアップ。悲惨度を独断と偏見をもってランキング付けしていく。今月の5人はこちら!

◆『東京島』(桐野夏生/新潮社)/気の毒な人 【清子】
◆『誘拐ラプソディー』(荻原浩/双葉社)/気の毒な人 【伊達秀吉】
◆『パン屋再襲撃』(村上春樹/文藝春秋)/気の毒な人 【マクドナルドの店員】
◆『恋愛中毒』(山本文緒/角川書店)/気の毒な人 【僕】
◆『家畜人ヤプー』(沼正三/幻冬舎)/気の毒な人 【瀬部麟一郎】


▼ランク付け基準
 ここにズラっと並んだ登場人物、本当に気の毒な人たちばかりなのだが、その中で、悲惨さ、こうなりたくない度などを元に独断と偏見をもって選んだ。

では、ランキングスタート!


5位
◆『パン屋再襲撃』(村上春樹/文藝春秋)
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気の毒な人 【マクドナルドの店員】
 夜中、空腹で目が覚めてしまった「僕」は妻に昔「パン屋襲撃」をした話をした。すると妻は「もう一度パン屋を襲うのよ」と言い、パン屋を襲撃することになる。なぜか黒いスキー・マスクと散弾銃を所有している妻と深夜営業しているパン屋を探すが見つからないので「僕」はマクドナルドを襲撃することになる。なんとも無茶な話の流れの中で襲撃されビッグマックを30個作らされることになったマクドナルドの店員たちを思うと気の毒でならない。

4位
◆『誘拐ラプソディー』(荻原浩/双葉社)
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気の毒な人 【伊達秀吉】
 金ない家ない女いない、あるのは借金と前科だけのダメ人間・・・というだけで悲惨な上に誘拐した伝助はヤクザの親分の子供だった。何かとついていない上に、人質である伝助にも振り回される男。

3位
◆『恋愛中毒』(山本文緒/角川書店)
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気の毒な人 【僕】
 物語冒頭の主人公のような語り口は僕だが、登場するのはさわりのintroductionのみ。彼女とうまく別れられない僕は、彼女が会社まで押しかけてきてしまい、本当の主人公の水無月に助けてもらうが、その章以来、結局最後まで僕が再登場することはない。ストーリーの中で気の毒な目に遭うのではなく、設定が気の毒、というパターン。

2位
◆『東京島』(桐野夏生/新潮社)
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気の毒な人 【清子】
 夫とクルーザーで世界一周中に嵐に遭い、難破。無人島へ流れ着く。後に遭難した若者たちも流れ着き、大勢の男たちの中で清子は、たった1人の女となる。そんな状況の中、男たちに熱望され、注目を集める清子。生き延びるための欲や性欲などにどんどん貧欲になっていく様が悲惨。

1位
◆『家畜人ヤプー』(沼正三/幻冬舎)
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気の毒な人 【瀬部麟一郎】
 蓄人犬ニューマの衝撃牙に噛まれ体が麻痺してしまった麟一郎は、そのままクララと共に2千年後の未来帝国イースへ行くことになる。イースは女権主義で白人種の「人間」の国だ。旧日本人である黄色人種は家畜「ヤプー」として扱われる。人間だったはずの麟一郎はそこで、肉体改造がなされていき、クララの家畜となる。ああ…考えるだけで気の毒…。


▼総評
 1位は『家畜人ヤプー』の瀬部麟一郎。未来帝国イースでは、旧日本人は白人種の「人間」の家畜「ヤプー」として扱われている。品種改良、肉体改造がなされ、皮革ヤプー、食用ヤプー、愛玩動物など人間のいいようにされているのだ。そんな国で麟太郎もヤプーへと改造されていく。そして、自分のアレをムチに改造されて彼女に叩かれたり…。これはダントツで気の毒度1位。
 2位は『東京島』の清子。男たちの中でたった1人の女という清子には稀少価値があり、若い男たちから性の対象として見られ、最初は優越感に浸るが考えてもみてほしい。法や秩序が機能しない無人島生活で、自分が唯一の女なのだ。ピラニアの池に投げ込まれたようなものである。人間の本性がむき出しになり、精神が破綻していくのがとにかく悲惨だった。
 3位は『恋愛中毒』の僕は、主人公かのように小説の冒頭のintroductionに登場するも、その後の本編では一切登場しない。文庫本にして400ページある長編を読み進める読者は僕の存在は、いつの間にか忘れてしまう。そんな扱いがなんだか切ない。
 4位は『誘拐ラプソディー』の伊達秀吉。伝助を誘拐したのをきっかけに、警察、ヤクザ、チャイニーズマフィアに追われるという、大騒動に巻き込まれる。自業自得とはいえなんとも気の毒。
 5位は『パン屋再襲撃』のマクドナルドの店員。深夜に突然襲撃されたのは気の毒だったが、ビッグマックを30個作っただけなので最下位とした。

 東京島の清子は、その状況も精神状態が悲惨。家畜となる麟太郎はもっとかわいそう。マックの店員は大量のビッグマックを作らされて気の毒!?・・・など、今回の5冊に登場する人たちの悲惨具合も様々だが、悲惨な人が出てくる話はやっぱり読んでいて面白い。個人的には、「誘拐ラプソディー」くらいの悲惨度が読んでいて一番ホッとする。「家畜人ヤプー」までいってしまうと目を覆ってしまいたい。

 空から鳥の糞が自分めがけて落ちてきたり、自動車に泥水をかけられたり。悲惨なできごとが降りかかってくることもあるだろう。
 そんな時、今回の5冊の「悲惨な登場人物」たちを思い浮かべれば、自分の悲惨さなどたいしたものではないと思えるかもしれない。
(新刊JP編集部/田中規裕)


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