世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらう。

 4月のテーマは『新生活を楽しむための3冊』
 入学や入社などをはじめとして環境の変化が多いとされる4月。「ワールド文学カップ」も絶好調という紀伊國屋新宿本店のピクウィック・クラブはどんな本を選んだのか?(ピクウィック・クラブについての紹介はこちらから


◆『恥辱』

著者:J・M・クッツェー
出版社:早川書房
定価(税込み):798円

 「新生活」。この言葉からは何を想像するか。新入学生だったり新入社員だったり、昇進して今まで行ったことのない場所で働くことになったり、不祥事を起こして働く場所が無くなったり、一人暮らしの始まりだったり、一人暮らしの終わりだったり。「新生活」というのは環境が変わる瞬間であり、元来季節を問わない。ただ、春は年齢性別に関わらず多くの人の環境が変わる季節であるから「新生活」をもたらしやすい。飛び込んだ先の新しい環境に慣れるのには時間がかかる。そこで出会う人間は大抵、自分とは育ちも習慣も考え方も全く違う。そういう環境に何とか早く馴染もうとするが、心底馴染めたと実感するのは当分先だ。いや、もしかしたら一生馴染めないかもしれない。
 この作品の主人公である男は自分の教え子にちょっかいを出して、職と家を奪われる。そして向かった先は娘のいる田舎。今まで生活してきた都会とは全く掛け離れた習慣に戸惑いつつも馴染もうとするが、ある日娘は若者達に暴行される。やる瀬ない気持ちの男に向かって娘は言う。「この土地はそういう土地なのよ」。
 この後男と娘はどういう人生を歩んでいくか。転落だけでは終わらない、南アフリカという国の真実を是非読んで確かめて欲しい。そして「新生活かぁ。ワクワクするなぁ。友達百人出来るかなぁ」とウキウキしてる人達は真っ先に絶望してほしい。明るい未来なんて待っていないかもしれないと気付いたら、新生活はもっと楽しくなる。


◆『69(シクスティナイン) 』

著者:村上龍
出版社:文藝春秋
定価(税込み):479円

 1969年。ビートルズの活動が佳境を迎え、ヒッピーがいて、ベトナムでは戦争があった。そして、大学紛争。華やかさと不穏な気配が複雑に絡み合った時代に、佐世保の高校生である矢崎剣介は、好きな子の興味を引くために高校をバリケード封鎖する。権力を振り回す教師たちを嘲笑うかのように、矢崎たちは、楽しむためにバリケード封鎖した。そこに思想なんてものは何もない。だけど、それこそこの時代を痛烈に批判しているように思う。「結局、みんな難しいことを考えているふりをしているんでしょ?」と。バカバカしいと思えることは素晴らしい。笑えることは素晴らしい。この本は生きるエネルギーで満ちている。村上龍はあとがきで、「楽しく生きないのは罪なことだ。戦いである」と書いている。まさにその通りだと思う。新生活を送る方々にぜひそのエネルギーを感じてほしい。


◆『のはらうた』

著者:工藤直子
出版社:童話屋
定価(税込み):(全5巻)各1312円

 春はあたたかい。春はあたらしい。春はいきいきしている。春はハッピーで輝いているのがいい。工藤直子の詩集「のはらうた」の世界には思わせぶりな陰影がない。例えばこんな感じだ。〈めをさましたら/いつものあさとなんだかちがう/なんだろう?/なぜだろう?/いつもよりしっぽのさきが/ふかふかしているせいかしら(中略)そうなんです/めをさましたら/はるでした!〉
 「のはらうた」は自然界すべてのものが人格を持ち、詩を書いているという設定の連作詩集だ。だから、この詩の作者は工藤直子ではなく「こりすすみえ」さんである。
 新しい生活が始まると、同時に新しい苦悩や躓きがやってくるものだ。悩むことは必要で大切なことだけれど、そればかりにとらわれていてはもったいないとも思う。詩や小説を読むということは、勉強のためだけにあるのでも、自己を高めるためだけにあるのでもない。ぽーんと弾けて、野原でばんばん互いを叩き合いながら笑い転げるような、疑いようもないしあわせな詩を読めるのは、ただ単純に素敵なことだ。


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【今回の書店】
紀伊國屋書店 新宿本店



住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

ウェブサイト
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