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(ジャンル:ジャズ)

日本独特の文化として、ジャズ喫茶というものがあった。
今も伝統ある店は営業を続けているが、60年代のジャズ喫茶はさまざまな文化人や学生、ミュージシャンたちが集う一代文化発信基地であった。たちこめる紫煙とコーヒーの香り、大音量で流れるジャズ。そんな独特の文化を今も愛する人たちがいる。

現在日本でジャズ名盤とされているアルバムの中には、ジャズ喫茶でよくリクエストされて、聴かれてきたものが少なくない。帰りを待っていてくれる優しい家族のように、そんなアルバムは愛聴されてきた。そのひとつがケニー・ドーハムの「静かなるケニー」である。

ケニー・ドーハムは、いわゆる技巧派のトランペッターではなく、どちらかといえば木訥なムードのある、悪く言えば野暮ったいトランペットである。

しかし、ジャズにおいては技巧を駆使したミュージシャンより、こうした「味のある」トランペットが好まれる傾向がある。人のいいオヤジサンと酒を酌み交わしているような雰囲気がたまらないのだ。

超絶技巧派のウィントン・マルサリスがあまり好まれないのは、「テクニックが鼻につく」という理由である。男性社会ではこういうトランペッターを生意気な小僧と呼んでしまうのは仕方がない。

そんな人柄の良さが好まれるケニー・ド−ハムのワンホールカルテットによる演奏は、バックをトミー・フラナガン(p) / ポール・チェンバース(b) / アート・テイラー(ds)という名手が支えている。

とかく寂しくなりがちなワンホーンカルテットの演奏を味わい深いものにしているのは、名サイドメンのトミー・フラナガンの存在である。この人もケニーと同じ、人の良いオヤジさんを連想させる滋味溢れたソロを聴かせる名人だ。

選曲も素晴らしい。1曲目の「蓮の花」の堂に入った演奏のあと、2曲目必涙のバラード「マイ・アイディアル」が来る。
ジャズのバラード演奏は数あれど、この曲ほどほのぼのと心安らぐ演奏は滅多にないであろう。3曲目はアーシーなブルース「ブルー・フライデイ」を渋くキメた後、今度はちょっぴり切ないバラード「アローントゥゲザー」が来る。この選曲のセンスの良さも人気の秘密だ。

アルバムの締めは、ソニー・ロリンズやエラ・フィッツジェラルドの名演奏で名高い「マック・ザ・ナイフ」である。人をハッピーな気持ちにさせることでは天下一品のこの曲で、「静かなるケニー」は幕を閉じる。1曲のムダもない、考え抜かれた選曲と演奏はまさにジャズ喫茶的名盤と呼ぶべきであろう。

はじめてジャズを聴くという人にもオススメしたいアルバムとして、録音から50年を経た今も輝いている作品である。

(収録曲)
1. 蓮の花
2. マイ・アイデアル
3. ブルー・フライデイ
4. アローン・トゥゲザー
5. ブルー・スプリング・シャッフル
6. クレイジェスト・ドリーム
7. オールド・フォークス
8. マック・ザ・ナイフ
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)

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