2つの大手出版社の試みから見る“書籍の無料公開”とその可能性(2)―角川書店『クラウド時代と〈ク−ル革命〉』

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 大手書店・紀伊國屋書店の新書本週間売り上げランキング(3月8日〜3月14日集計)の第1位に輝いている『クラウド時代と〈ク−ル革命〉』(角川歴彦/著、片方善治/監修、角川書店/刊)。
 実は本書は、刊行前にウェブ上で“無料公開”されていた。

 書籍が3月10日刊行であるのに対し、“無料公開”は3月1日から3月10日まで。つまり、発売日前の10日間を“無料公開”していたのだ。
 第1回でクローズアップした文藝春秋の『生命保険のカラクリ』(岩瀬大輔/著)の無料公開とはこの点で大きく違う。

2つの大手出版社の試みから見る“書籍の無料公開”とその可能性(1)―文藝春秋『生命保険のカラクリ』

 『生命保険のカラクリ』の場合は、既刊本(昨年10月に刊行)で6刷の売り上げを見せており、既に著者も出版社も「元が取れている」状況で公開に踏み切っている。しかし、角川書店はまさしく“新刊本”での試みである。では、無料公開に踏み切った理由とは一体なんだったのだろうか。

 角川書店に取材を行ったところ、無料公開の理由は2つあるという。
 1つはNHK出版の『FREE』の成功だ。ここで角川書店が目に付けたのはネット上におけるクチコミ効果だった。「全文無料掲載が目的ではなく、あくまでクチコミを生むための手段として捉えています」(角川書店)。
 さらに、もう1つの理由としてあげるのは、本書の著者で角川グループホールディングス代表取締役会長兼CEOの角川歴彦氏本人の意思によるものだ。角川書店は「自分自身が今考えていることをより多くの人に伝えるためにも、全文掲載したいという本人からの強い希望がありました」と語る。

 こうしてはじまった無料公開は、わずか1週間で約3万アクセスに達した。

 『クラウド時代と〈ク−ル革命〉』は情報産業の近未来、クラウド、大衆革命について言及しており、まさにITの現場にダイレクトに影響を与える内容となっている。そのため、角川書店は「クチコミが発生している場所で話題になるテーマであると考えていた」という。

 事実、その戦略は成功した。
 無料掲載ページのリンク元の上位には「twitter」がきており、「twitter」で生まれたクチコミがそのサービスを知らせる1つのメディアとなっているという。
 これは文藝春秋でも同様のことが起きていた。『生命保険のカラクリ』は「twitter」のつぶやきがきっかけで公開予定日前から大きな反響を呼んでいたのは前回の通りである。

 ユーザーからの反応も上々で、「斬新過ぎる戦略」「内容が悪いとネガティブなクチコミで逆効果になる。内容に自信があると信じている」といったつぶやきが、「twitter」上で見ることができる。
 そしてこのクチコミの効果は、本屋という実際に書籍が売られている現場にも多大な影響を与えている。それが、紀伊國屋書店での新書売り上げランキング1位という結果にもあらわれているだろう。

 いかに話題性を高めるか、いかにその書籍名を目につけさせるか。
 既存の広告メディアが衰退しつつあるといわれる今、「twitter」という新しいインターネットメディアで広がる「クチコミ」が強い力をつけていることが、改めて実証されたと言えよう。
(新刊JP編集部/金井元貴)


【関連リンク】
クラウド時代と<クール革命> | 角川歴彦
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