世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらうのがこの連載だ。

 3月のテーマは『新入社員に読んでほしい! 社会人の基礎がわかる3冊』。
 今週は紀伊國屋書店新宿本店の文芸書のエキスパート集団・ピクウィック・クラブさんに、来月入社する新入社員に読んでほしい本を紹介してもらった。(ピクウィック・クラブについての紹介はこちらから


◆『セールスマンの死』

著者:アーサー・ミラー(著)倉橋健(訳)
出版社:早川演劇文庫
定価(税込み):840円

 これから始まる新しい生活への期待で胸を躍らせている人たちに是非ともオススメしたいのが、このアーサー・ミラーの代表作。人間とは能天気なもので、どんなことが起こるか判らない状況では不安よりも期待が先行してしまって大怪我をすることがある。これはそんな悲劇を未然に防ぐための、最高の予防策となる悲劇である。いや、この戯曲は喜劇めいているので、あるいは悲劇めいた喜劇なのかもしれない。でも、どちらだろうと大した違いはない。ここで肝心なのは僕たちの生活環境がどれほど喜劇めいていて、同様にどれほど悲劇めいているかを知ることなのである。アーサー・ミラーの描く世界はただならぬ現実味を帯びているので、よりクリアにこれから踏み込む世界の様相を俯瞰できることだろう。つまり、セールスマンには二週間の休暇を得るために五十週間もの期間身を粉にして働く必要があり、一生働き続けてようやく家の支払いを済ませる頃には誰も住むものがいなくなっているのだ。戸外でのびのびしたいと思いながら暑い夏の朝に地下鉄へと入っていく彼らの姿は泣き笑いを誘う。この構図の滑稽さにどれだけ早く気付くことができるかが重要である。さあ、泣き笑いの世界へようこそ。主人公ローマンが直視できなかった現実が、今、目の前まで迫ってきている。

◆『族長の秋』

著者:ガブリエル ガルシア=マルケス(著)鼓 直(訳)木村 榮一 (訳)
出版社:新潮社
定価(税込み):2940円

 会社というでかい組織の中で仕事をする時、必ず出会う「上司」。特に新社会人にとっては会社の中で見かける人が皆上司であると言っても過言ではない。男だろうが女だろうが、年上だろうが年下だろうが関係なく上司というものは存在する。しかし残念な事に無数にいる彼らの内、有能な上司はほんの一握りに過ぎない。小数の有能な上司は勝手に頼りになってくれるのでそういう人との出会いはプラスになるから良い。問題は残りの人間だ。その人達に「お前は無能だ!」と面と向かって言っても、自分の事を言われているとは気付かないのでどうしようもない。そしてまさにそういう人間が権力を駆使してトップに立った時、崩壊は始まる。この小説は絶対的な権力を持っている大統領の奇行、それに仕える部下、恐怖に苛まれる民衆の日常が描かれる。この架空の一国と会社は同じだ。崩壊が始まっているにも関わらず気が付かない大統領とその取り巻き連中に対し、民衆はその事に既に気が付いている。そのような状態の中で自分が民衆の立場ならどのような声を発さねばならないか、逆に自分が上の立場ならばいかに民衆の声を聞かねばならないか…。入社する前に一回読み、10年後あなたが偉くなった時にもう一度読んでほしい一冊。

◆『夜間飛行』

著者:サン=テグジュペリ(著)堀口大学(訳)
出版社:新潮文庫
定価(税込み):580円

 新生活の期待と不安は、夜明けというよりは夜中に近い。表題作に描かれる夜間飛行士たちにとって、街と星の明かりは単なる目印だけではなく、希望そのものだ。だけど、嵐の夜だったらどうだろう。今のように通信機器が発達しているわけではない時代には、嵐の中の飛行は恐怖でしかない。また、地上から見守る者たちも戦っている。気休めは言えず、飛行士たちが恐怖の幻想に飲み込まれないように厳しく当たることもある。理解されることはなく、それに納得しなければならない孤独。それでも飛ぼうとする男たちと、飛ばす男たちの姿は、飛ぶことに恐怖をあまり感じなくなった現代においても勇気を与えてくれる。朝、目が覚めて、今日も頑張ろうという気持ちになれる一冊。


◇   ◇   ◇

【今回の書店】
紀伊國屋書店 新宿本店
住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

ウェブサイト
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