2つの大手出版社の試みから見る“書籍の無料公開”とその可能性(1)―文藝春秋『生命保険のカラクリ』

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 2009年11月、出版業界のその後を揺るがすある実験的な試みがなされた。NHK出版の新刊『FREE』が、発売に先駆けてウェブ上で「無料公開」を行ったのだ。限定1万ダウンロードだったが、その1万ダウンロードはわずか43時間で達成。
 さらにその話題性もあって、書籍自体も10万部を突破するというベストセラーとなった。

 それから年が明け、AppleによるiPadの発表やAmazon Kindleの動きなど、電子書籍の導入に向けた動きが加速する。そういった最中で起こったのが2社の大手出版社による新書本の無料公開である。
 1つは文藝春秋の『生命保険のカラクリ』(岩瀬大輔/著)、もう1つが角川書店の『クラウド時代と〈クール革命〉』(角川歴彦/著)である。

 文藝春秋は3月1日から文春新書『生命保険のカラクリ』のPDF版無料公開を開始した。といっても公開が始まったのは3月1日からではなく、実はそれ以前からダウンロードは始まっていたと文藝春秋の担当者は語る。

 「オープン日は3月1日なのですが、その前からtwitter上では広まっていまして。2月27日には著者の岩瀬さんがブログで書いてくださったりもしまして、オープン日前から既にtwitter上で広がっていましたね」
 twitter上で話題となったこの試みはあっという間にネットユーザーに広まり、3月2日までに20000件を超えるダウンロードがあったという。

 もともと無料公開された『生命保険のカラクリ』は、新刊ではなく既刊本で昨年10月に出版されて以来6刷という売り上げを見せていた。では、なぜ既刊本を公開したのか。

 この試みは、出版からしばらく経って、著者の岩瀬大輔氏によって提案されたものだ。岩瀬氏は「もともとこの本は一人でも多くの人に読んで欲しいと思って書いた本だった」という。
 しかし、ブログなどで書いても、多くの人にリーチできるわけではない。そこで、まずは確立している流通経路に乗せた上で結果を出し、岩瀬氏の方から文藝春秋側にアプローチをかけたという。「本を出すときはあまり無料公開を考えていなかったけど、今なら出来るのでは、と思った」(岩瀬氏)。
 また、6刷にもなれば、著者側も出版社側も既に元は取っている売り上げとなる。だからこそ、PDF無料公開という実験的な試みが出来たともいえる。

 では岩瀬氏自身は無料公開について今後も肯定的であるかと聞くと、そうではない。「やはり本の内容によりますね。この本は、生命保険の売り手と買い手の情報量・知識の差を埋めたくて書いたもので、とにかく多くの人に読んで欲しいという想いがあったから」だという。

 なお、この『生命保険のカラクリ』無料ダウンロードは4月15日まで行われており、年代、性別などの簡単な質問に答えることでPDFをダウンロードできる。岩瀬氏は「PDFだとやはり読みにくいから本を買いに行った、という人もいます(笑)」と話す。

 この文藝春秋のケースから見えたのは、twitterを通して生まれた「つながり」が持つ可能性だった。斬新な企画が1つのつぶやきから瞬く間に広がっていくというこの現象は、新しいメディアと目されるtwitterならではのものだとも言えよう。
 文藝春秋は「今回はあくまでチャレンジ。どうなれば成功かというのは今後、結果を見てから考えます」と話す。

 では、同じ3月1日から同じく本の無料公開をはじめた角川書店はこの試みについてどのような考えを持っているのか。次回は角川書店から出版された『クラウド時代と〈クール革命〉』の無料公開の事例について探る。(続く)
(新刊JP編集部/金井元貴)


【関連リンク】
文藝春秋『生命保険のカラクリ』ページ(こちらからPDFファイルをダウンロードできます)

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