正しく数字を分析することで見えてくる「本当の日本の未来」とは(3)

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 これまで配信してきた2回の中で、統計を使った思考の重要性、大地震が起こる確率やベーシック・インカムの可能性などを統計を用いて言及してきた『未来思考 10年先を読む「統計力」』(朝日新聞出版)の著者・神永正博氏へのインタビュー。
 最終回となる第3回では、「なぜ人間は感情や情緒に左右されるのか」「これからの出版」という2つの質問をぶつけてみた。(→インタビューを最初から読む
(新刊JP編集部/山田洋介)


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■人はなぜ情緒的にものを見てしまうのか

―本書を拝読していて、日本社会に流布している情報は感情や情緒によって大きく左右されている、だから数式やデータという統計的視点でもう一度見直してみよう、という著者の意図が強く感じられます。なぜ、私たちはこのように情緒的なものの見方をしてしまうのでしょうか?

神永「私たちがデータで議論できるようになってから、それほど間がないからだと思います。これは、例えば、多くの人がダイエットが苦手だということと似ているのではないでしょうか。
人類の歴史からすると、食べ物が足りないという状態の方が、圧倒的に長かったわけです。
そうした状態では、とにかく食べ物があったら食べてしまう方が、生き残れる確率が上がったはずです。腹8分目などといっていたら、今度いつ食べ物にありつけるかわからず、下手をすると餓死しかねないからです。食物が有り余っている状態に慣れていないのは当然でしょう。これと似たメカニズムが働いているのではないかと思います。
歴史的に見れば、データに基づいて議論できるほどデータがなかった時期の方が、ずっと長かったわけです。今から20〜30年前でさえ、統計的に議論できるのは、そうした情報にアクセス可能な役人や学者だけでした。普通の人は事実上、ほとんどデータなど知らなかったのです。そうした状況では、感情と情緒で意思決定することが合理的だったのではないでしょうか」

―最後の質問です。本書のエピローグにあるように、今の日本に必要なのは「変化する力」とあります。現状、出版界も、webの台頭や電子書籍の登場などで苦境に陥っていますが、著者側として、今後出版界はどのように「変わっていくべき」とお考えでしょうか?

神永「本を出版するには、企画、執筆、編集、校正、デザイン、内容のチェック、そして、プロモーションと流通システムが必要です。本のブランディングを担当するのも出版社でしょう。著者に催促するのも出版社の仕事ですね(場合によっては、著者を元気づけたりしながら、最後まで書かせないといけません。大変な仕事です)。電子書籍が一般化すれば、流通システムの役割は徐々に小さなものになっていくでしょう。クリックしてダウンロードするだけですから、流通コストはほぼゼロです。
ただ、他の部分は誰かがやらなければなりません。企画、執筆まではよいとしても、内容を適切に構造化するには、編集者の力が依然として必要でしょう。中には、書いたことがそのまま本になるくらい文章力のある著者もいらっしゃると思いますが、数は少ないでしょうし、執筆に集中する方が全体として効率が高いと思います。著者がプロモーションをするのも、なかなか難しいでしょう。プロモーションは出版社の仕事であり続けるのではないでしょうか。
ただ、企画、執筆、編集、校正、デザイン、内容のチェックは、個人で分業できるのではないかと思います。水平分業が進み、フリーランスになる人が増えるのは間違いないでしょう。書籍出版社の役割は、プロモーションとブランディングに集約されてゆくような気がします。
ただ、何でもプロモートしすぎれば信用を失い、ブランディングもうまくいきませんから、最終的には、どんな本を出したいと思うか、プロモートしたいと思うか、という出版社の『思想』が一番重要になるのかもしれません。それは、実は出版社の仕事の本質なのではないか、という気がします」

―ありがとうございました!


■取材後記
 私たちの生活は感情で流されてしまうことが多いが、実はそればかりだと損をしてしまったり、本当のことを見失ってしまうことも多くある。神永氏のお話から、確率や統計などの重要性はよく分かるだろう。より賢く、より豊かに生きるために統計の知識を身に付けたいと感じた。

■神永正博さんプロフィール
 東北学院大学工学部電気情報工学科准教授。1967年東京生まれ。東京理科大学理学部数学科卒業、京都大学大学院理学研究科数学専攻博士課程中退。博士 (理学/大阪大学)。東京電機大学助手、日立製作所中央研究所研究員を経て現職。(Amazonより引用)


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