今季のJリーグMVPは鹿島の小笠原満男が受賞した。彼はみんな知ってのとおり、今年一度も日本代表に呼ばれていない。国内リーグでもっとも優れた活躍をしたとされる選手が、その国の代表のベンチにも入っていないことに対して、おかしいと思う意見も多々あるね。それは確かにそうかもしれないが、これは小笠原に限った話ではないよ。
小笠原の同僚である野沢拓也だったり、Jクラブがこぞって争奪戦に乗り出している広島の柏木陽介も、日本代表には見向きもされない。

代表メンバーを選ぶのは、監督の権限だ。メンバーをいじるもいじらないも、すべて監督の自由だ。特に現状では、弱いところとばかり試合をやってきたものだから、なまじ結果が出たりして、変化をつけづらいのもあるだろう。ここをどう考えるのかはその監督の資質による。

一方で、強く言わなければならないのはマスコミの問題だ。たとえばオーストラリアに負けたとき、これで大丈夫かと、テレビや新聞は追求しただろうか。あのとき何を報道しただろうか。小笠原がMVPを受賞したから、というのは関係ないんだ。問題はもっと前から蓄積されていた。
競争の欠如は、日本の特徴かもしれないね。マスコミにはその一因があって、日本代表チームの競争のなさはその結果と言える。

すべてがこの調子だからタチが悪い。たとえば岡田監督は、番組のインタビューの内容が悪いと某局に腹を立て、試合後のインタビューを拒否したよね。本来なら、マスコミは大声を上げて怒ってもいいところで、よその国なら監督と対立の構図が築かれていたかもしれない。でも、弱腰の某局は何も言わず、逆に怒られたのは解説者だったんじゃないかな。「お前もうちょっと気をつけろよ」とか何とか言って。

さらに言えば、代表監督にも競争と責任が欠如している。高い目標を掲げて、負けて帰ってきても、それで終わり。そこにノルマはない。ベスト4には程遠いグループリーグ敗退でも、3連敗でも、岡田監督が何か問われるわけではない。
記者会見で「もっとゴール前の精度を上げないといけないと感じた。4年間お疲れ様でした」みたいなことを言って、それで終わりだよ。誰かもドイツで同じことを言っていたね。そして、岡田監督を選んだ名誉会長も、その座を追われることはない。彼に責任を問える人間がいないのだから。

すべてが予定調和だ。競争も選挙もない組織に、追及できないマスメディア。
競争があるからたくましくなるし、おもしろくなるんじゃないか? 日本のサッカー界は本当の意味でプロじゃない。これでは、サッカー人気が低下していくのもうなずけるね。(了)


セルジオ越後 (サッカー解説者) 
18歳でサンパウロの名門クラブ「コリンチャンス」とプロ契約。ブラジル代表候補にも選ばれる。1972年来日。藤和(とうわ)不動産サッカー部(現:湘南ベルマーレ)でゲームメーカーとして貢献。魔術師のようなテクニックと戦術眼で日本のサッカーファンを魅了。1978年より(財)日本サッカー協会公認「さわやかサッカー教室」(現在:アクエリアスサッカークリニック)認定指導員として全国各地青少年のサッカー指導。現在までに1000回以上の教室で延べ60万人以上の 人々にサッカーの魅力を伝えてきた。辛辣で辛口な内容のユニークな話しぶり にファンも多く、各地の講演活動も好評。現在は日光アイスバックス シニアディレクターとしても精力的に活動中


●主な活動 テレビ朝日:サッカー日本代表戦解説出演「やべっちF.C.」「Get Sports」  日本テレビ:「ズームイン!!SUPER」出演中 日刊スポーツ:「ちゃんとサッカーしなさい」連載中 週刊サッカーダイジェスト:「天国と地獄」毎週火曜日発売 連 載中 週刊プレイボーイ:「一蹴両断!」連載中 モバイルサイト FOOTBALL@NIPPON:「越後録」連載中