W杯予選プレーオフ、フランス対アイルランド戦でのアンリのハンドによるゴールが話題になっている。この誤審によるゴールがW杯出場を決定づけたのだから、インパクトは相当なものだろうし、1週間以上経ってもまだ騒がれているのもうなずける。

しかし、冷静になって考えてみれば、起きた状況がこれだけ騒ぎを大きくしているだけであって、サッカーにおいてあのようなケースは決して珍しいものではない。4ー0が5ー0になるゴールだったら、誰も何も言わなかっただろう。
反射的に手を出してしまったアンリの行為は確かに良くないが、レフェリーがその瞬間を肉眼で確認していれば当然笛を吹いてイエローカードを出していたはずだ。そう考えると、やはり問題はレフェリーが見逃したことにある。

こういう騒ぎがあるたびに、ビデオ判定の導入やレフェリーの増員などについて議論が起こる。FIFAも理事会で議論するというし、日本のファンの間でもビデオ判定の導入を、という声が多々聞こえるが、はっきり言ってそれは無理な話だよ。

サッカーというスポーツのスケールを考えてほしい。世界中のいたるところで、毎週のように、それこそ数え切れない数の試合が行われているんだ。そのすべての試合にビデオ判定を導入しようとしたら、天文学的な数値のお金が必要になる。というか無理だ。相撲に導入しようというのとはワケが違う。
かといってビッグゲームだけ、たとえば今回のようなW杯予選などにだけ適用するというのでは、意味がない。

ビデオ判定の導入は、レフェリーへの信頼を消してしまうことにもつながる。もし仮に、試合中ビデオによってレフェリーの間違いが証明されてしまったとしたら、その後の試合の雰囲気はどうなるか。選手はそのレフェリーを信頼してプレーできるだろうか。サポーターは黙っているだろうか。国によっては、レフェリーは命の危険さえつきまとうものなのだから、そういうこともよく考えたほうがいい。

さらに言うと、レフェリーのレベルの低下にだってつながる。だって間違えたって、ビデオで確認すればいいのだから。そう考えたら、僕でも吹けるよ。きわどいものは全部ビデオで見ましょうで済むからね。

サッカーにおいて、今回のようなケースはつきものだ。ハンドやオフサイド、それに伴う誤審は、もう何年も前から起こってきたこと。当事者はつらいかもしれないが、そういうスポーツなんだとどこかで割り切る必要もある。
僕としては、今回の一件が、W杯のいいPRになったんじゃないか、なんて思ってしまうね。これだけ騒がれれば、普段サッカーをあまり見ない人にも、来年はW杯があるってことを知ってもらえたんじゃないかな。(了)

セルジオ越後 (サッカー解説者) 

 

18歳でサンパウロの名門クラブ「コリンチャンス」とプロ契約。ブラジル代表候補にも選ばれる。1972年来日。藤和(とうわ)不動産サッカー部(現:湘南ベルマーレ)でゲームメーカーとして貢献。魔術師のようなテクニックと戦術眼で日本のサッカーファンを魅了。1978年より(財)日本サッカー協会公認「さわやかサッカー教室」(現在:アクエリアスサッカークリニック)認定指導員として全国各地青少年のサッカー指導。現在までに1000回以上の教室で延べ60万人以上の 人々にサッカーの魅力を伝えてきた。辛辣で辛口な内容のユニークな話しぶり にファンも多く、各地の講演活動も好評。現在は日光アイスバックス シニアディレクターとしても精力的に活動中

●主な活動 テレビ朝日:サッカー日本代表戦解説出演「やべっちF.C.」「Get Sports」  日本テレビ:「ズームイン!!SUPER」出演中 日刊スポーツ:「ちゃんとサッカーしなさい」連載中 週刊サッカーダイジェスト:「天国と地獄」毎週火曜日発売 連 載中 週刊プレイボーイ:「一蹴両断!」連載中 モバイルサイト FOOTBALL@NIPPON:「越後録」連載中