途中出場だったことで、かえって存在感の際立った中村俊輔<br>(Photo by Kiminori SAWADA)

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58分間の不在が、彼の存在価値を改めて問いかけていた気がする。

11月14日に行われた南アフリカ戦で、中村俊はベンチスタートとなった。チームより遅れて前日のお昼に現地入りしたためで、コンディションへの配慮が理由だった。

背番号10のいない前半は、見せ場の少ないまま0−0で終わっていた。10分に長谷部が、15分には岡崎が得点機をつかんだもの、ゴールネットを揺らすには至らない。序盤のチャンスを逃したことで主導権をつかみ損ね、決して動きの良くない南アフリカに希望を与えたまま時間が過ぎていく。前半終了間際には左ウトサイドの大久保のポジションを上げ、4−3−3から4−4−2へ布陣が変更させるが、状況は好転しなかった。

後半開始とともにウォーミングアップの強度をあげていた中村は、50分過ぎに新調されたユニホーム姿を披露する。主審が交代のタイミングを逃し、少し余計に待たされることになったが、59分にピッチへ飛び出していった。

するとどうだろう。凝り固まっていた身体がほぐれるように、日本の攻撃が活性化していく。中村が介入することで、それぞれの選手の動きが有機的に結びついていくのだ。

61分、敵陣深くにボールが入らない状況を受けて、中村が左サイドのタッチライン際からセンターサークル付近へ下がり、最終ラインをまわっていたボールを受ける。ほぼ同じタイミングで、岡崎が中央から右サイドへ斜めに走り出す。相手DFラインの背後へパスがとおり、岡崎が右サイドを突く。低くて速いクロスに、大久保と松井が飛び込む。後半最初の好機は、中村のパスをきっかけにして生まれたのだった。

その後も彼は、確実にゲームをコントロールしていった。前半は少なかったサイドチェンジを織り込んで相手守備陣を揺さぶり、ボールの収まりどころとなってサイドバックの攻撃参加を引き出した。

前半よりも相手のプレッシャーが弱くなり、仕事をしやすくなっていたのは事実だ。途中出場ゆえの体力的な優位もあった。

そういったことを差し引いても、彼の出場がチームを変えたのは間違いない。本田の台頭で起用法や立場が議論されることも増えているが、試合内容は何よりも雄弁である。前半と後半でかくも大きな差のあった南アフリカ戦は、中村の存在意義をはっきりと刻印するものだった。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖